研究概要 |
本研究の目的は、これまでに全く報告のない回折限界を超えた空間分解能でのキラル識別顕微鏡を、紫外自然円二色性光電子顕微鏡法に基づいて開発することである。その根本原理は、通常の吸収過程の円二色性では双極子禁制遷移となり感度が0.1-0.001%程度しか得られないのに対し、光電子放出の角度分解検出では双極子項が相殺されず感度が10%にもなることを利用するもので、これは全く独創的なアイデアである。本研究が成功すれば、これまで空間分解能が光学顕微鏡レベル(1μm程度)で試料の厚みもμmオーダー必要であったものが、一気にナノレベル(数10μm)で単分子層の厚みまで計測可能になると考えられ、革新的なものとなり得る。 22年度は初年度であるため、角度分解能を備えた光電子顕微鏡を購入し、真空槽の設計・製作を行った。納入が年度末近くであったため、まだ本装置を用いた実験は行えていないが、真空槽を含めた全体の装置仕様は本実験を遂行するのに十分な性能を有している。 空間分解能のない光電子円二色性の計測は顕微鏡がなくとも実施可能である。22年度は、研究室所有の高出力波長可変紫外レーザー[Ti:sapphireレーザー(690-1050nm,70fs,2.5W)の第3,4高調波を利用]を用いて、いくつかのキラル有機化合物に関して予備測定を行った。しかしながら、ある試料ではレーザーによる試料の劣化、またある試料では仕事関数がレーザー波長に合わないなど、実際の測定上の問題点が明らかとなってきた。現在、フタロシアニンが作る表面キラリティーを利用するなどで、デモンストレーション実験を目指しているところである。
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