研究課題/領域番号 |
22241036
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平川 一彦 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10183097)
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キーワード | 量子効果 / 微小共振器 / サブバンド間遷移 / テラヘルツ / 半導体超格子 / ブロッホ振動 |
研究概要 |
今年度は特に半導体超格子中の電子の伝導ダイナミクスをテラヘルツ電磁波で制御し、ブロッホ発振器への応用を図るという観点から、共振器の設計と伝導ダイナミクスの制御の実験を行った。半導体超格子は、その特性として電圧の増加とともに電流が減少する微分負性抵抗を有している。この微分負性抵抗のために、バイアス電圧の印加とともに超格子内部の電荷密度は不均一となり(高電界ドメインの発生)、ブロッホ発振器に必要な均一な電界が得られないという、ブロッホ発振器実現のための大きな障害となってきた。本研究では、外部より強力なテラヘルツ電磁波を入射し、大振幅交流動作により電子の伝導を制御し、高電界ドメインの発生を抑制することを行った。 外部から入射させる電磁波としては、強力なジャイロトロンからの400GHzの電磁波を用いることとした。また、ジャイロトロンからの電磁波を集光するために、共振器としてはフォトニック結晶微小共振器ではなく、素子に集積化した金属のダイポールアンテナを用いることとした。ダイポールアンテナにすることにより、小さな試料メサ構造に竜磁波を集光することができるとともに、Q値がそれほど高くないので、ジャイロトロンからの光との結合が容易であるという利点があった。 試料にジャイロトロンからの電磁波を照射しつつ、電流-電圧特性を測定したところ、外部から照射した電磁波のフォトンエネルギーがちょうどブロッホ振動の周波数に等しくなるバイアス電界において、電流が電磁波の照射に依存しない不動点が観測された。また、それ以下(以上)のバイアス電圧では、電流の減少(増加)が観測された。このことは、半導体超格子内部のワニエ・シュタルク準位間で光支援トンネル効果により伝導が大きく変化し、電磁波照射で高電界のドメインが消失し、素子に均一な直流電界が印加できたことを意味しており、ブロッホ発振器実現への大きなステップとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、微小共振器構造中に入れた量子構造中のサブバンド間遷移と電磁波の結合に関する研究を行うよう研究を進めていたが、福井大学のジャイロトロン施設が使えるようになったために、研究の主眼を少しシフトさせて、アンテナ共振器に結合した半導体超格子の伝導ダイナミクスを強いテラヘルツ光で制御する実験を行った。この実験では、外部からの強いテラヘルツ光照射により超格子内の高電界ドメインを抑制できるという実験的な証拠が見つかり、大きな進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度にきっかけをつかんだ大振幅交流動作による半導体超格子のドメインの抑制について、アンテナ共振器構造の最適化や、内部交流電界の正確な見積もりなどを行い、高電界ドメインの抑制に関する初めての実験的な論文を執筆する。さらに当初計画にある微小共振器構造に関して検討を行い、低いパワーのテラヘルツ電磁波の照射でも大きな交流効果が得られるよう、最適化を進める。
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