研究課題/領域番号 |
22242001
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
宮坂 道夫 新潟大学, 医歯学系, 教授 (30282619)
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研究分担者 |
鳥谷部 真一 新潟大学, 危機管理本部, 教授 (20227648)
山内 春夫 新潟大学, 医歯学系, 教授 (30134919)
栗原 隆 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (30170088)
後藤 清恵 新潟大学, 医歯学総合病院, 特任准教授 (30331531)
坂井 さゆり 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (40436770)
細見 博志 金沢大学, 保健学系, 教授 (50165560)
田澤 立之 新潟大学, 医歯学総合病院, 講師 (70301041)
足立 智孝 亀田医療大学, 看護学部, 准教授 (70458636)
中田 光 新潟大学, 医歯学総合病院, 教授 (80207802)
甲斐 克則 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (80233641)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生命倫理学 / 医療倫理学 / 倫理原則 / 物語論 / 臨床倫理 / 方法論 / ナラティヴ / 医事法制 |
研究概要 |
本研究は、【1】医療倫理学の統合的方法論を構築する、【2】統合的方法論の臨床での実践可能性を検証する、【3】統合的方法論の法制度的な整合性を検証する、の3点を目標にしている。5年計画の3年目にあたる本年度は、統合的方法論を「手順化」したモデルとして「ナラティヴ検討シート」を作成し、これを医療従事者に対して実際の臨床事例に適用して検討してもらうことができ、またその結果を第31回日本医学・哲学倫理学会大会でのワークショップとして公開することができた。さらに、本研究を構成する(1)医療倫理学の統合的方法論を構築するための基礎的・理論的研究を行う研究班、(2)医療倫理学の方法論の臨床応用についての実証的研究を行う研究班、(3)医療倫理学の方法論の法制度的観点からの検討を行う研究班の三つの研究班から、多岐にわたる論文・著書が刊行され、学会発表も国内外で多数行われた。哲学・倫理学領域の成果としては、物語論と規範性、ドイツ観念論、臨床状況での関係性等に着目した理論的研究の成果を見ることができた。医学・臨床関連の成果としては、脳神経学、アルコール依存症、呼吸器疾患、家族性腫瘍診療、緩和ケア、遺伝医療等での臨床倫理の検討方法に関する課題の検討が公刊された。法制度的な領域では、語りの解析によるリスクアセスメント、医療事故の記録・報告、終末期医療、臓器移植、遺伝子医療等における諸外国との比較法制度論的検討などが主要な成果であった。これらの研究成果は、現時点でも国際的に類似のものが現れていない独創的なものであり、本研究の特色である学際性が表れている。いずれのテーマも、次年度以降も継続的に推進されるべき価値あるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述の通り、本年度は、統合的方法論を「手順化」したモデルとして「ナラティヴ検討シート」を作成し、これを医療従事者に対して実際の臨床事例に適用して検討してもらうことができ、またその結果を第31回日本医学・哲学倫理学会大会でのワークショップとして公開することができた。これは、当初の計画では平成24年度を目途に実現する見通しのものであった。5年間の計画として、統合的方法論を仮に構築して提示することでも十分であったことからすれば、計画以上に進展していると言うことができる。これにより、残りの2年間においてさらに野心的な目標を設定することも十分に可能になった。すなわち、これまでに構築した統合的方法論について、「臨床での実行可能性」と「法制度的な信頼性」との二つの側面からの検証を行い、これをフィードバックさせることにより統合的方法論を洗練させるという目標である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの実績により、当初の目標をより野心的に発展させる可能性が見いだされたように思える。一つは、「ナラティヴ倫理」(もしくは「ヒューマニティーズ」、「ケアの倫理」)を手がかりとする方向である。この方向でのコミットメントは、看護師には比較的容易に受け入れられているように思えるが、医師(あるいは医学生)に対して、この方向のアプローチをいかに試みるかは、検討を要する課題である。 もう一つは、「適正な手続き(メディカル・デュー・プロセス)」として、意思決定に至るまでの「話し合い」の位置づけが可能であるかを検討する方向である。ナラティヴ・アプローチに、ガイドライン等で言われる「話し合い」の適正さを担保するための位置づけを与えるとすれば、そこに求められる条件(話し合いへの参加者、話し合いの環境、その内容等)が問題となり得る。ナラティヴ・アプローチをそのような検証に耐えうるものと見なすことについては詳細な議論が必要であろう。 この二つの方向は一見すると正反対のものにも見えるが、原則主義や4分割表のような既存の方法論がカバーできていない領域を考慮に入れ、さらに臨床現場での個別的な意思決定に倫理的・法的な正当性を持たせるための効力を担保する、いわば両輪のような位置づけを持つのかもしれない。これらは厳密な検討を要するものであるが、大きな社会的意義を有するものであり、残り2年間で可能な限り推進していきたい。
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