記号論の知見をもとにした「描画過程マトリクス」を基盤に、描画行為の創造性と視知覚観察の役割に関して、実験観察を実施してきた。 視覚心理学の知見を踏まえ、錯視効果等の研究成果をもとにした描画行為に関して実験を計画。描画過程の記録観察を行うために、液晶ペンタブレットとアイトラッカーを用いて、「ペンの動作」「視線の動き」の時間的変化を記録し、再生する、新たな実験用ツールを開発し、実験分析を行った。 平成25年度は、美術教育歴のある習熟者(東京藝術大学の学生、卒業生)12名、非習熟者11名、合計33名を対象に、写実的に描画することの難しさについて、認知的なバイアスの影響から検証した。作成した実験用ツールを用いて、図地反転図形と倒立図を用いて概念バイアスの影響を、また錯視図形を用いて知覚的なバイアスの影響を評価した。こうした実験の解析を通じて、美術教育歴のある習熟者には、概念バイアスを、周辺視野を意識的にコントロールすることでキャンセルしているようなケースが確認された。描画行為の創造性を視覚心理学から分析する端緒を見出すことができたこれについて現在、投稿に向けて論文を作成中である。 また実験用ツールの制作を通じて、「油画描画シミュレータ」インターフェイスの設計を変更し、新たなソフトウェアの開発を実施した。このソフトウェアは、立体に着色した色陰影に基づき、立体表面の凸凹感を変化させる3Dペイントソフトウェアである。
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