研究課題/領域番号 |
22243001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鈴木 賢 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (80226505)
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研究分担者 |
高見澤 磨 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (70212016)
石塚 迅 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (00434233)
坂口 一成 大阪大学, 大学院法学研究科, 准教授 (10507156)
宇田川 幸則 名古屋大学, 大学院法学研究科, 教授 (80298835)
崔 光日 尚美学園大学, 総合政策学部, 教授 (60360880)
川島 真 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (90301861)
石井 知章 明治大学, 商学部, 教授 (90350264)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 市民社会 / 権威主義的政治 / 市場経済 / NGO / GNGO / 結社の自由 / 反権力 |
研究概要 |
1 全体での調査:今年度は8月26日~9月2日にかけて代表者および分担者数名で中国を訪問し、深セン、広州、上海、合肥、臨泉(後ろ二都市は安徽省)、北京において労働、環境保護、コミュニティサービス、エイズなどの分野で活動する各種のNGO9つの組織で聞き取り調査、現場観察を行い、北京では中国NGO研究の第一人者である王名教授(清華大学公共政策学院)からNGOをめぐる最新状況につきブリーフィングを受けた。同時に文献による調査、研究を、全員がぞれぞれのテーマに即して行った。 2 明らかになった事項:(1)業界団体、科学技術、公益慈善、都市農村のコミュニティサービスの4類型の社会組織については、これまでの業務主管部門+登記部門の二重の行政許可を改め、業務主管部門がなくても直接、登記を認める方向で運用が変更される可能性が出ていること。(2)草の根NGOには、正式の登記以外にもさまざまな正統性獲得ルートがあり、違法組織に対する取り締まりが選択的、跛行的にしか行われないために、現場での微妙なバーゲニングのなかで不断に駆け引きを繰り返しながら生存を図っている。(3)党/政府の側も行政経費の節減、人員の削減、行政の効率化、外部化、ある種の社会との協同的メカニズムの導入をねらって、NGO的(むしろGNGOというべきか)組織の積極活用を図る動きも見られる。(4)党/政府は権力に手懐けられた従順な反権力的ではない市民社会の創出を目指している。そのための制度的枠組み作りに腐心し、具体化を模索しているのだと考えられる。これがまさに権威主義的政治レジームと権力・資本同盟システムの間にしみ出す市民社会の特徴となろうとしている。権力に従順ではないことが判明すれば、容赦なく取り締まりの対象となるものの、恭順をなんらかのルートで誓うことで法外的な存在でも生き残る道を与えるのが目下の戦略となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までの中国(広東、上海、北京を主とする)各地のNGO(ドナー)、資金提供側(スポンサー)での聞き取り、現地観察、NGO研究者からのブリーフィング、文献による調査によって、中国の市民社会がいかなる状況にあるか、権力や市場との関係、それを媒介する法構造とその問題点などについて概ね明らかにすることができた。 市民社会の方には権力に依存、迎合、利用、共生しようとする現実的な姿勢が見られるし、他方で権力の側にも非敵対的な市民社会的な何かを育て、それを自らの利益のために活用しようとするアンビバレントな心理がある。もっぱら権力に抑圧され、権力に抵抗する市民社会という単純な構図ではないことを実証的に明らかにできてきている。また、それを理論的に昇華させる戦略を立てつつあり、最終年度での研究取りまとめに向けて概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1.総括的な国際シンポジウムの開催:研究成果を検証するために中国から一線で活躍する憲法、行政法関係の研究者を招き、日中公法学シンポジウムを開催する(北海道大学法学研究科附属高等法政教育研究センターとの共催により、北海道大学を会場として、2014年8月4日、5日に開催の予定)。このシンポジウムには日本各地、台湾や欧米からも研究者を招いて、権威主義的政治レジームと市場経済の結合という中国の経験を相対化し、理論化することを試みる。その際、「市民社会」に対して法がどうアプローチしようとしているかに関心の焦点を当てる。 2.最終成果取りまとめに向けた内部的研究会(2回):本プロジェクトの成果は最終的には単行本として刊行することを目指している。そこに向けて各研究分担者は、本書に寄稿するための草稿を持ち寄り、今年度は内部的な研究会を2度開催する(場所は北海道大学東京オフィスを予定)。この研究期間に得られたそれぞれの知見につき、草稿にもとづいて報告し、それをもとに全員でディスカッションを行う。これを通して各自の草稿に対する加筆、修正のための示唆を得ることをねらっている。 3.補足的な中国での現地調査実施:これまでに調査をやり残しているか、再度の調査が必要なNGOや研究者、政府機関などへの聞き取り調査を、一部のメンバーにより補充的に行う。今年度は最終年度であるので、成果取りまとめに不可欠なところに絞って、効率的に短期間の調査を行うものである。 4.成果物の出版に向けた助成金の申請のための最終稿の作成:本プロジェクトの成果を一書にして刊行するために、2014年11月には科学研究費研究成果公開促進費の申請を行う予定である。そのためにはすべての原稿をあらかじめ取りそろえる必要があり、それに間に合わせるべく、草稿への加筆・修正の作業を各自で進めることになる。
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