本研究の目的は、現代社会に対応した新たな犯罪被害調査を開発すること(ネット調査の可能性)、さらに、住民の犯罪不安や刑事司法機関にたいする意識などについての情報を収集し、それらを検証することである。そして最終的には、科学的根拠に基づいた刑事政策の基盤となる統計資料を提供することにある。本研究は、①調査の実施方法・調査媒体に関する研究、②調査の実施および結果の比較(訪問留置法とネット調査、本調査とEUのESS[欧州社会調査]との比較)、③調査結果についての検討および成果の公表の3段階で実施した。本年度は3年計画の最終年度にあたり、③を遂行した。 以下に、研究の遂行および成果を具体的に報告する。 前年度までの調査結果については、学会報告や連携研究者との研究会、海外調査などを通じて、当該分野の専門家からの知見を収集し、より緻密な考察をおこなった。具体的な検討対象としては、自動車関係の犯罪におけるネット調査と訪問留置調査の被害率の違いの原因、EU諸国と比べた日本の刑事司法にたいする信頼の低さ、などがあげられる。その一方で、新たに、日本における刑事司法にたいする信頼の形成メカニズムについての分析(共分散構造分析)を実施した。また、考察をつうじて、ネット調査の可能性を探る研究においては、調査票の質問項目の不足など、調査設計の不備(今後の課題)も浮き彫りとなった。最終的な成果は、報告書(冊子体)および学術論文として公表する予定である。 これらの考察や課題をふくめた結果は、2012年7月のイギリス犯罪学会(ポーツマス)、10月の日本犯罪社会学会(一橋大学)、11月のアメリカ犯罪学会(シカゴ)など国内外の関連学会において発表した。さらに、2013年3月には、イギリスとオーストラリアから当該分野の研究者を招いて、国際シンポジウム『信頼される刑事司法とは?』(龍谷大学)を開催した。
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