研究課題
過去20年間、先進諸国は労働市場の流動性の拡大を経験してきた。特に日本やヨーロッパの場合、そうした流動性の拡大は、政治主導による構造改革の結果と考えられる傾向にある。しかし、構造改革を経ても、優良企業における内部労働市場重視の姿勢が変わったわけではない。実は、アメリカにおいても、過去20年間、同一企業勤続にともなう賃金プレミアムは増加傾向にあるとされている。労働市場の流動性上昇は、優良企業における内部労働市場の動揺を必ずしも含意しないのである。本計画は、先進国経済における内部労働市場の現在および将来の役割を見極めるために、企業の組織選択を理論的に分析するとともに、日本の過去の経験に遡って、内部労働市場の発展を実証的に分析しようとするものである。研究成果から二点を紹介したい。中林真幸の実証的分析は、日本の内部労働市場における勤続プレミアムは戦後、急上昇したが、並行して、一般的技能を授ける教育のプレミアムも上昇しており、両者間には補完性があったこと、そして、1960年代末までにおいて、現業労働者の新卒一斉採用は一般的ではなかったことを明らかにした。すなわち、高度成長期までにおいて、同一企業への勤続による企業特殊的な技能の形成と、より高い教育による一般的な技能の形成とは補完的に生産性を増大させており、加えて、同一企業への勤続に報いる内部労働市場の発達は、流動的な労働市場の存在と矛盾していなかったのである。一方、石黒真吾は、長期的には非効率的に機能する組織を、規制のような外生的要因によってではなく、企業が内生的に選択してしまう状況をモデル化する理論分析を行った。これらの結果は、各国の特殊性や規制の効果に関する事前の仮定を置くことなく、いかなる場合に企業が内部労働市場を内生的に選択するのかを、理論的、実証的に調べる必要性を示している。そうした共同研究のさらなる進展を期したい。
26年度が最終年度であるため、記入しない。
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