研究課題/領域番号 |
22244001
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斎藤 毅 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (70201506)
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研究分担者 |
玉川 安騎男 京都大学, 数理解析研究所, 教授 (00243105)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | l進層 / 分岐 / 特性輪体 / 隣接輪体 / 非輪状性 / ガロワ被覆 / 余接束 |
研究概要 |
今年度の最大の成果は,正標数の多様体上のl進層に対しある種の非退化性の条件のもとでその特性輪体を余接束の輪体として定義したことである.これは,l 進層の暴分岐とD 加群の不確定特異点の類似として長らく期待されていたことであり,非退化性という仮定はあるもののかなり一般的な状況で定義ができたのは非常に大きな成果である. 非特性的な射によるひきもどしと特性輪体の構成の可換性がなりたち,とくに多様体上の曲線への制限による特性輪体の特徴づけが得られる.さらに,非特性的なスムーズ射に関する非輪状性もDeligne-Laumonによる相対次元が1の場合に帰着させることで証明できる.これらは従来の対数構造を考慮した構成では得られない結果であり,logなしの方法の優位性を示している。等標数の局所体上のlogなし分岐群の次数商の微分形式による記述を得た.また,特性輪体による特性類の表示によりEuler数の公式も証明した. このほか,局所体上の多様体の分岐理論についての加藤和也氏との共著論文を完成し出版した. 6月4日~8日には東京大学数理科学研究科で研究集会「東京数論幾何週間」を行った。海外から9名の講演者を含む18件の1時間講演があり、数論幾何の最近の重要な進展を学ぶことができた。参加者との議論も有益だった。10月には東京大学玉原国際セミナーハウスで若手研究者を中心とする小規模な研究集会を行った。Perfectoid空間を応用した志村多様体の悪い還元の最新の研究を学ぶことができて有意義だった。繰越した経費でLaurent Lafforgue教授を招へいし、保型形式に関する氏の最新の研究成果について講演してもらうとともに数論幾何について議論した。繰越した経費の一部は2013年6月に東京大学玉原国際セミナーハウスで行った若手研究者を中心とする小規模な研究集会の経費としても使用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
対数構造を考慮せずに余接束に特性輪体を定義できたのは予期通りの結果である。ただし、その際必要となる亜群構造の構成を圏論的に簡明に行ったこと、そして分岐因子の係数の分母を制御する操作を乗法群の作用から生じる単体スキームを使って美しく行えたことなどは予想以上の成果である。この方法によって曲線への制限が統制できたのは期待通りであるが、曲線への射影で定まる隣接輪体について非輪状性を示すことができたのは、予期していなかった成果でありこの方法の成功を保証するものといえよう。 まとまった研究時間を確保する難しさのためにここまでかかってしまったのが予定外ではあったが、加藤氏との共著論文を完成し出版することができたのはそれをわりびいても大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
対数構造を考慮せずに余接束に特性輪体を定義したこと、さらにこれを用いて非輪状性を示したことで、通常の代数幾何的方法との親和性を大きく高めることができた。この特性輪体は新しい重要な研究対象であり、これについての理解を深めることで分岐理論の研究を大きく進展させられるものと考えている。当面は、代数曲面の場合に特性輪体が定義されずに残った有限個の点でのようすの解明を中心に研究を進める。
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