研究概要 |
本研究課題は4項目に大別される.(i)クォークとハドロン:本年度は電磁相互作用とu-dクォーク質量差を取り入れた1+1+1フレーバー格子QCDの本格計算を実行し,u,d,sクォーク質量を決定した.現在解析の最終段階であり,平成24年度中に論文を取り纏める予定である.(ii)共鳴状態と新粒子:現実より重いクォーク質量で生成された2+1フレーバーの格子QCD配位を用いて,実験的に存在が確認されているρ(770)中間子共鳴状態のエネルギー値と崩壊幅を計算し、論文発表を行った.(iii)原子核構造:本年度はこれまでクェンチ近似のもとで行われていたヘリウム原子核と2核子系の計算を,クォークの真空偏極効果を取り入れた2+1フレーバー計算へ拡張した.これにより,クェンチ近似だけでなく2+1フレーバーQCDにおいてもヘリウム原子核と重陽子が束縛することが確認され,その束縛エネルギーを定量的に評価した.現在結果を論文に取り纏め中である.この計算は現実よりも重いクォーク質量で行われたため,今後クォーク質量を軽くして現実の値に近づけていくことが重要である.(iv)有限温・密度QCD:近年我々は有限密度シミュレーションにおける符号問題を解決するためのアルゴリズムを開発し,その有効性を小さな格子サイズを用いたテスト計算によって確認し,論文に取り纏めた(現在受理済).本年度はこのアルゴリズムを用いて,3フレーバーQCDにおいて温度160MeV程度,化学ポテンシャル数百MeVの領域の相構造解析の試験的計算を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既に電磁相互作用とu-dクォーク質量差を取り入れた1+1+1フレーバー格子QCDシミュレーションによってu,d,sクォーク質量を決定できたこと、また2+1フレーバーQCDにおいてヘリウム原子核および重陽子の束縛を確認できた意義は大きい.また,有限温・密度QCDにおいて我々が開発したアルゴリズムの有効性を小さな格子サイズを用いて確認することができ,今後の応用への目処がついた.
|
今後の研究の推進方策 |
原子核の構成に関しては,今後2+1フレーバー格子QCDにおいてクォーク質量依存性を調べることが重要である.それと並行して,質量数4以上の原子核の効率的拷成方法を検討する.また,有限温・密度QCDにおいては我々が開発したアルゴリズムを用いて,着実な相構造解析を推し進めたいと考えている.具体的な初期目標は,臨界終点が存在すると期待されている温度160MeV程度,化学ポテンシャル数百MeV程度の領域の詳細な相構造解析である.
|