研究課題/領域番号 |
22244030
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
小玉 英雄 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (40161947)
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研究分担者 |
中山 和則 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90596652)
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キーワード | アクシオン / 超弦理論 / 宇宙論 / ブラックホール / 重力波 / 高エネルギー天体 / 超高エネルギー宇宙線 / モジュライ |
研究概要 |
本年度は41編の論文を査読付き学術誌に発表した.主な成果は以下の通りである. 1.ブラックホール不安定:高精度数値計算により,回転ブラックホールまわりで増幅反射不安定により形成されるアクシオン雲は、成長により全質量がある臨界値を超えると非線形自己相互作用によって突然爆発的な崩壊を起こすこと(ボーズノバ現象)を世界で初めて示し,そのメカニズムを解析的に明らかにした.さらに,ボーズノバにより放射される重力波が将来観測で検出可能であることを指摘した.平行して,回転ブラックホールによる有質量ベクトル場の増幅反射不安定を,回転が遅い場合に数値的に調べた. 2.高エネルギー天体物理:ガンマ線観測衛星によるAGNからのTeVガンマ線観測と赤外線背景放射の観測データの間の矛盾を、アクシオン-光子変換により解決する可能性を詳しく検討した.論文の発表は,CIBER実験のデータ正式発表の後になる. 3.宇宙論:インフレーションを実現しPeccei-Quinn対称性の破れがGUTスケールとなる超対称アクシオン模型を構成.アクシオンが暗黒輻射となる模型を提案し,等曲率宇宙ゆらぎからの制限,LHC実験への示唆を与えた.また,パリティーを破るような重力波の非ガウス統計がスローロールパラメータで決定されることを明らかにした. 4.超弦理論:超弦理論から導かれる4次元有効超重力理論において、超軽量アクシオンがモジュライとして現れる可能性を広い枠組みで研究し,アクシオン質量が超対称性の破れのスケールとプランクスケールの比の2乗で抑制されることを示した.さらに,繰り越しにより2012年8月に超弦理論宇宙物理に関するワークショップExDiP2012を開催し,世界の最前線で活躍する超弦理論研究と宇宙物理学研究者の交流および共同研究を促進した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アクシオンの引き起こす宇宙現象の中で最も注目すべきものである回転ブラックホールの増幅反射不安定について,アクシオンボーズノバの発生を世界で初めて数値的に示すなど,顕著な成果があった.また,高エネルギー宇宙現象の観測がアクシオンの存在を示唆する可能性についても,最新のデータに基づいて明確な解析に成功した.ただし,超弦理論からのアプローチについては,期待されたほどの進展がなかった.この点を改善するため,繰越経費で国内外の著名な超弦理論研究者と宇宙物理学研究者を招聘してH24年8月に国際ワークショップを開催し,超弦理論に基づいて素粒子標準モデルの再現と整合的な宇宙模型の再現という2つの要請を同時に満たすコンパクト化の模型の可能性を検討し,いつくかの有望な方向性を絞り込むことに成功した.この成果は次年度の研究に生かされる.
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今後の研究の推進方策 |
ブラックホールとアクシオンの相互作用により引き起こされる宇宙現象については,詳しいボーズノバ現象の解析,磁場との相互作用,ベクトル場への拡張などをさらに推進し,現実的なモデルに基づいて観測的提言を目指す.宇宙線・高エネルギーガンマ線天文学の問題については,さらに高エネルギー宇宙線領域におけるアクシオの役割を検討する.宇宙論に関しては, LHC実験の成果を取り入れた解析を行う.これらの宇宙物理からのアプローチとともに,超弦理論に基づく素粒子宇宙統一モデルの構成とそれに基づくアクシオンスペクトルの研究を重点的に推進.
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