研究課題/領域番号 |
22244030
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
小玉 英雄 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (40161947)
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研究分担者 |
中山 和則 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90596652)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 宇宙物理学 / アクシオン / 超弦理論 / ブラックホール / 高エネルギー天体 / 超重力理論 / コンパクト化 |
研究概要 |
本年度は48編の査読付き論文を学術誌に発表した。主な成果は以下の通りである。 1.ブラックホール不安定:回転ブラックホールの周りでのアクシオンボーズノバ現象を4重極モードについてもシミュレーションし、2重極モードと比べてより激しい現象が起きることを発見した。さらに、Kerr時空での摂動論によりボーズノバからの重力波放出を評価し、重力波将来観測で検出可能であることを示した。また、有質量ベクトル場の増幅反射不安定を、遅い回転および大質量極限に対して初めて計算。 2.高エネルギー天体物理:ガンマ線観測と赤外線背景放射の観測データの間の矛盾を最新の観測データを用いてより詳しく解析。銀河中心からの130GeVガンマ線(Fermi衛星観測)を説明するアクシオン暗黒物質模型を構築。 3.宇宙論:LHC実験結果と整合的な素粒子模型、及び位相欠陥生成問題を回避し比較的大きな等曲率揺らぎを予言するインフレーション模型を超対称アクシオン模型により構築。ゲージ場とアクシオンがChern-Simons結合する系に対して、非等方インフレーションが起きるためにはゲージ場が可換であることが必要であることを示した。U(1)R対称性の破れにより生成されるアクシオンおよび宇宙ひもの宇宙論的影響を調べ、超対称性の破れへの強い制限を得た。 4.超弦理論:4次元極大超重力理論のSL8型真空を完全分類し、モジュライ質量スペクトルを解析的に決定。ヘテロ型超弦理論の交差ブレーン模型とE8超対称非線形シグマ模型の対応を解明。断熱解によるモジュライ問題解決の可能性の検討。大余剰次元シナリオで自然にアクシオン型暗黒放射が生成されることを指摘。ヘテロ型およびII型弦理論での現実的低エネルギー理論を与えるモデルを探査。11月に国際会議”Axion Cosmophysics”を開催し、成果の発信、情報交換、共同研究の推進において大きな成果。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブラックホール不安定については、昨年度、ブラックホールによる増幅反射不安定とアクシオン非線形自己相互作用の連携によりアクシオンボーズノバが実際に起きることを.最も成長率の高いl=m=1モードに対して数値シミュレーションにより世界で初めて示したが、今年度はこの計算をl=m=2のモードに拡張し,ボーズノバの激しさがモードにより大きく変化することを示した。このような3次元シミュレーションを高精度で実行できるのは世界でも我々だけである。さらに、この計算に基づいて、ボーズノバからの重力波放出の具体的評価を行い、次世代の重力波干渉計により検出可能な強度の重力波が放出されるという興味深い結果を得た。また,高エネルギー天体物理の関連では、高エネルギーガンマー線のスペクトル観測について、最新のデータを詳しく分析し、アクシオンの必要性をより強く指示する結果を得た。さらに,超弦理論からのアプローチについては,具体的なコンパクト化で標準モデルを近似的に再現するモデルの具体的構成を着実に進めるとともに、密接に関連する4次元極大超重力理論のあるクラスのゲージ化について可能なゲージ化とその真空構造の完全な分類に成功した。また、繰越予算で開催した国際ワークショップ”Superstring cosmophysics”および本年度予算で開催した国際会議”Axion Cosmophysics”は、国際規模で超弦理論研究者と宇宙物理学研究者が交流する機会となり、その後,それを契機として様々な共同研究が新たに始まった。
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今後の研究の推進方策 |
全体としては、ブラックホールアクシオン系の研究をさらに発展させるとともに、超弦理論からのアプローチを重点的に推進する。 具体的には,まず,ブラックホール不安定については、ボーズノバ現象の数値シミュレーションをさらに多様な初期条件に拡張するとともに、ボーズノバからの重力波放出についてより信頼性の高い評価を得るための努力を続ける。平行して、有質量ベクトル場の増幅反射不安定の成長率に対する新たな計算スキームを改良し、正確な成長率の値を確定する。また、有質量テンソル場の増幅反射不安定を計算する方法を検討する。 超弦理論からのアプローチについては、4次元有効理論としての拡張超重力理論の分類、真空探査、アクシオンスペクトルとゲージ相互作用の研究を重点的に行い、それを足場にボトムアップで宇宙論・素粒子論と整合的な超弦理論コンパクト化の探査にアプローチする。また、現在最も有力視されている、大きな内部空間をもつコンパクト化の研究をさらに推進する。
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