研究課題/領域番号 |
22244031
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
藤井 恵介 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (30181308)
|
研究分担者 |
兼村 晋哉 富山大学, その他の研究科, 准教授 (10362609)
岡田 安弘 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局等, 理事 (20212334)
高橋 徹 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (50253050)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 電弱対称性の破れの解明 / 質量生成機構の検証 / ヒッグス粒子の精密測定 / 超対称性の探索 / 暗黒物質の研究 |
研究概要 |
素粒子物理学における喫緊の課題は、「ゲージ原理」と並び立つ標準模型の2本柱のうち未検証の「電弱対称性の破れと質量生成機構」を解明し、テラスケールの物理の扉を開く事にある。前年度に引き続き「電弱対称性の破れと質量生成機構」、「新しい物理」のA、B、2グループ体制で研究を進めた。H25年度で特筆されるのは米国スノーマス夏期研究への貢献である。その成果はスノーマス研究ILC関連白書(ヒッグスの物理、標準理論を超える物理、トップの物理の3編)として公表されている。 グループA: ヒッグス質量125GeVへの更新作業を(1)断面積x分岐比、(2)トップ湯川結合、(3)ヒッグス自己結合の測定について進めた。更新作業は進行中であるが、終了した解析についての120GeVからの外挿結果との一致は良好である。また、ヒッグス粒子の各種結合定数決定に関する解析を行い精度を評価した。解析方法の改善に関しては、遷移行列要素法の導入や、レプトンID性能の向上のためのツールの開発が進んでいる。H→WW*を使ったヒッグスの異常結合解析については論文誌に結果を公表した。また、トップ対生成のしきい値領域に関する解析も進め、トップ質量、トップ湯川結合の精度を評価した。 グループB: 準安定スタウ、暗黒物質のヒッグス・ポータル模型、最も軽い超対称粒子がヒッグシーノの場合等、LHCでは研究困難なシナリオの検討を続けた。一方、LHCによるヒッグス質量の決定、新粒子探索からの質量下限値の結果による新物理パラメータへの制限を踏まえ、可能な新物理の可能性についての様々な理論的検討を進めた。特に、標準理論を超える拡張ヒッグス構造が、125GeVヒッグス粒子の性質にもたらす標準理論予言からのずれのパターンを使い理論模型を指紋照合する可能性の検討を進めた。 以上の結果は、スノーマス研究のILC関連白書の中核をなしている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H24年度には、LHCにおけるヒッグス粒子候補の発見という画期的な進展があった。この発見の結果、ILCにおけるヒッグス物理検討の重要性は決定的なものとなった。質量がおよそ125GeVと確定したこと、それ以外の新粒子/新現象の兆候が見られなかったことから、標準模型を超える物理のシナリオには重要な制限が課せられることになった。理論面では、このような制約下での可能なシナリオ、あるいは125GeVという質量のもつ意味の検討が加速した。実験面では、スノーマス夏期研究に対する貢献のためにも、これまで以上に軽いヒッグスの精密測定の検討に重点を移す必要があった。そのことでヒッグス粒子精密測定のシミュレーション検討は当初予定以上に進展した。それらの進展の中には、種々のヒッグス結合測定においてILCがルミノシティー増強後のLHCの能力を遥かに凌駕し、多くの理論から予想されるヒッグス結合の標準模型からのずれを捉え、そして種々の理論模型を選別するのに必要な精度、すなわち相対誤差で1%を切る精度を達成できることを示したことが含まれる。一方では、標準模型を超える新現象の研究は、LHCからの制限と矛盾しないものを中心とする検討に重心を移す事になり、一部のシナリオの検討の優先度は下げざるを得なかった。全体的に見れば、理論/実験の共同研究体制はさらに強化され、その結果として多くの成果が得られ、投稿論文、学会講演の形で公表できた。特に、スノーマス夏期研究に多くの結果を入力できたことは、国際的貢献として特筆できる。
|
今後の研究の推進方策 |
H25年度に引き続き、[A] 電弱対称性の破れと質量生成機構の物理、[B] 標準模型を超える物理の2グループ体制で研究を推進する。 [A]グループは、ヒッグス質量125GeVへの更新が済んでいない解析チャンネルの更新を行う。新物理探究のため種々のヒッグス結合の測定精度の限界を系統誤差の観点から検討をさらに進める。一方、重心系エネルギー250GeV近辺で始まる上記e+e-→ZH反応測定に続き、トップ対生成のしきい値領域である350GeV近辺での実験を行うことが提案されている。ここでは理論的に非常に明快なトップ質量の測定が可能となるが、ヒッグス研究も同時に行える。さらに500GeV実験では、トップ湯川結合やヒッグス自己結合にアクセスできるだけでなく、e+e-→vvH反応の頻度の高まりにより、ヒッグス結合の精度が大きく向上する。異なるエネルギーでの実験をどう組み合わせたらヒッグス結合測定等の物理の成果を最大化できるか、実験シナリオの検討も行う。ILC早期実現を目指し、その結果を加速器の詳細設計への入力とする。 [B]グループは、LHCでのヒッグス候補の質量測定や直接探索結果の制限を踏まえて、より制限されたパラメータ空間における新粒子探索 シナリオについて超対称性、余剰次元模型、リトル・ヒッグス模型、ダーク・ヒッグ ス模型、ヒッグス・ポータル模型など様々な可能性を考慮しつつシミュレーション研究を進める。H24年度に重点的に検討した質量縮退等のためにLHCでの発見が困難なシナリオにつ いてもさらに検討を進める。 H25年度より、リニアコライダー計画の推進体制が刷新されたことを受け、ILC実現に向け、さらに国際協力体制を強化していく。 [A]、[B]両グループ共通の課題として、レプトン同定、フレーバー同定の解析法改善、遷移行列要素法などの新しい解析方法の導入を進め精度向上を目指す。
|