加速器で得られる、高エネルギー・高強度陽子ビームを用いて原子核反応によって生成される素粒子ミュオンは、物質科学・基礎物理の様々な分野に応用されている。ミュオンはその発生方法自身の原理的問題として、発生角度分布・運動量分布が大きなものとなり、従来の4重極3重項による取り込みでは取り込み立体角は十分ではない。我々はこの状況を打破するため大口径軸収束タイプのミュオンチャネルの開発を行っている。この際大量にミュオンを発生させる際に必然的に伴う高強度の放射線に耐えられるよう初段には「常伝導ソレノイド磁石系」を用い、その下流に設置される「湾曲型超伝導ソレノイド」による効率的な輸送と低バックグラウンド化をはかり、最後に実験標的位置に焦点を結ばせる為にこれまで我々のグループにより開発されてきた「大オメガ(軸収束型超伝導磁石系)」タイプの収束系を用いる。このような新しいコンセプトのビームチャネルをJ-PARCミュオン施設に設置した場合、世界最高強度(正ミュオン109/s、負ミュオン108/s、従来型の約20倍の効率)のパルスミュオンビームを発生させることが可能となる。本年度は本研究の推進のため、まずビーム軌道計算・熱負荷計算・磁場計算などの様々なシミュレーションを実行し、全体の詳細設計に努めた。併せて、超伝導コイルの試作機を作成し、巻線方法などについて、実地検証をおこなった。
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