研究課題/領域番号 |
22244036
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
島野 亮 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40262042)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 励起子 / 半導体 / 電子正孔系 / 高密度励起現象 / 励起子ボース-アインシュタイン凝縮 / 電子正孔BCS状態 |
研究概要 |
高密度に光励起された電子正孔系において、極低温下で生じることが期待される励起子ボース-アインシュタイン凝縮(BEC)や電子正孔BCSといった量子凝縮相を調べるために、Geに注目した。Geの電子正孔系は長い寿命を持ち、寿命内に格子温度まで冷却されること、電子、正孔ともに軽い有効質量を持つことから、励起子BECの観点から魅力的な系である。しかし、伝導帯及び価電子帯の縮重度が大きいことにより、低温になると電子正孔液滴が自発的に形成されてしまい、これが量子凝縮相が発現するうえでの阻害要因となっていた。そこで、この電子正孔液滴形成を、結晶に一軸性圧力を印加しバンド縮重を解消することによって抑制することを試みた。電子正孔液滴形成の有無、暗励起子の蓄積の有無を敏感にとらえる手法としてテラヘルツ分光法に着目し、テラヘルツ分光が可能な圧力アンビルセルの開発を進めた。アンビル材料、構造の最適化など試行錯誤の末、同アンビルセルの開発に成功した。大気圧下での電子正孔液滴の臨界温度6 Kより十分低い1.6 Kで実験を行ったところ、一軸性圧力印加により確かに電子正孔液滴の形成が抑制されることを、テラヘルツ帯にある電子正孔液滴の表面プラズモン共鳴の観測から確認した。さらに、励起子BECの転移温度の上昇を図るため、磁場印加によりスピン縮重度の解消を試みた。このために、磁場下、圧力下のGeの励起子に対して、磁場効果を検証した。励起子の束縛エネルギー(4.2 meV)に比べて、2 T以上では伝導電子のランダウレベル間の間隔が大きくなり、磁気励起子が形成される。この磁気励起子内部遷移、及び自由キャリアのサイクロトロン共鳴はどちらもテラヘルツ帯にあり、その複素誘電率スペクトル計測から、磁気励起子の固有エネルギーの磁場依存性、磁気励起子及び自由キャリアの密度等の基礎評価を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画で掲げた、強磁場下1軸性圧力下の中赤外光励起テラヘルツプローブ分光は、先例にない困難な実験環境を必要としたが、試行錯誤の末、立案した計測手法を実現することに成功した。これにより、磁場下圧力下での光励起された電子正孔系のダイナミクスを高い時間分解能で調べることが可能になった。一軸性圧力によりバンドの縮重度が低減することは理論的には知られ、実験でも発光測定を通して調べられていたが、表面プラズモン共鳴の消失という最も直接的な形で、電子正孔液滴の形成が極低温下で抑制されることを突き止められたのは大きな成果である。その結果として、極低温で磁気励起子が高密度に蓄積されることが明らかとなり、研究は大きく前進した。さらに、電子、正孔どちらもが最低ランダウレベルのみに高密度に存在する、いわゆる強磁場極限の状況が実現し、その性質を低エネルギースペクトロスコピーから詳しく調べることが可能になったことは、基礎物性研究上大変有意義であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により、Geにおいて磁気励起子を高密度に蓄積し、間接遷移型半導体の電子正孔系において量子凝縮相が発現する密度領域に迫れることがわかってきた。今後は、より高密度領域を探索し、極低温での励起子モット転移の振る舞いを明らかにすること、及び、より低温域へと実験を拡張し、励起子ボース-アインシュタイン凝縮が発現する領域を目指す。このためには励起光源の最適化、より低温測定環境の整備が重要である。量子凝縮相実現を目指し、これらの課題を推進する。
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