研究課題/領域番号 |
22244039
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
山田 和芳 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 所長 (70133923)
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研究分担者 |
平賀 晴弘 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (90323097)
藤田 全基 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (20303894)
渡辺 孝夫 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (40431431)
佐藤 豊人 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (20455851)
富安 啓輔 東北大学, 学内共同利用施設等, 助教 (20350481)
松浦 直人 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (30376652)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 中性子散乱 / 高温超伝導 / 反強磁性 / 擬ギャップ |
研究概要 |
H24年度は、銅酸化物と反強磁性金属に関して、以下の研究成果が得られた。これらから、超伝導相に特徴的な磁気励起、特に擬ギャップと磁気励起との関係を引き出すことが本研究の狙いである。 (1)ホールドープ型銅酸化物超伝導体のアンダードープ組成La1.925Sr0.075CuO4について、超伝導相、擬ギャップ相、常伝導相、それぞれの相について磁気揺らぎを中性子散乱で調べた。その結果、超伝導相、擬ギャップ相では砂時計型分散が観測された一方で、常伝導相(400K以上)では分散の無い連続帯励起に変化することを見出した。これにより、砂時計型の磁気励起分散が光電子分光等で観測されている電荷励起の擬ギャップの出現と密接な関係にあることが明らかになった。 (2)電子ドープ型銅酸化物超伝導体では、磁気励起を多角的な手法によって研究した。共鳴X線非弾性散乱実験では、Nd2-xCexCuO4に対するマグノン励起の組成依存性を調べ、電子ドープにより、ホールドープ型とは異なり、磁気励起スペクトルのエネルギーバンドが高エネルギーに拡がることを明らかにした。 (3)銅酸化物の(1)や(2)のような磁気励起の特徴が、典型的な反強磁性金属のそれとどのような関係にあるかを調べるため、 (Mn,Fe)3Siの磁気励起を、中性子散乱で調べた。その結果、CrやFe系超伝導体などでみられる「チムニー構造」が観測され、これが反強磁性金属、あるいは(2)に共通な特徴である可能性を指摘した。 (4)3層銅―酸素構造を持つBi2Sr2Ca2Cu3O10+δの大型単結晶の育成行い、c軸方向の厚みが100ミクロン以上の部分がいくつか確認できた。これは従来得られた結晶に比べて10倍程度大きく、中性子散乱の実験で用いる1mm厚の単結晶が射程に入ってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東海の研究用原子炉(3号炉)が大震災以降休止しており、中性子ビームを利用できないことが、本研究にも大きな影響を与えている。 (1)今年度は中性子偏極子用のCu2MnAlの単結晶育成条件がかなり絞り込め、何回か単結晶育成を行ってきたが、出来た結晶の単結晶度と、原子配列の秩序度測定(いずれも、透過度の高い中性子ビームを利用する必要がある)が系統的に出来ない状況にある。単結晶度は、韓国の原子炉HANAROでチェックを行なった結果、直径50mmX長さ80mmのほぼ単一ドメイン(モザイク幅が0.3度)の単結晶であることがわかったが、偏極中性子用モノクロメータ、アナライザの製作には、このような単結晶が全部で3~4個必要である。現状では3個の結晶ができているが、これらが利用可能な単結晶かどうか中性子ビームによるチェックが必要である。さらに今後は、この結晶インゴットをモノクロメータ用のサイズ(15mmx40mmx6mm程度)に切断し、中性子の偏極度を左右する秩序度や中性子反射率の測定を行う必要がある。結晶秩序度の制御は、結晶の熱処理によって行い、中性子によるチェックと熱処理のフィードバックで最適な熱処理条件を捜す。このためには、頻繁に中性子によるチェックが必要だが、HANAROなど外国の原子炉では、この種の実験が困難である。また、作成した中性子偏極子の偏極度を測定するにも、偏極中性子ビームが必要であり、3号炉の再開(今年度の秋以降を想定している)が待ち望まれる。
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今後の研究の推進方策 |
パルス中性子非弾性散乱実験については、J-PARCのパルス中性子ビームが、今年の夏にビーム供給を止め、加速器の性能アップの工事がスタートする。そのため、今年の夏までに、できる限りビーム利用を行い、銅酸化物や反強磁性金属、さらには強磁性金属の磁気励起の実験を行う。また海外の中性子施設についても積極的に利用を継続する。 ホールドープ型銅酸化物の常伝導相(400K以上)における連続帯的励起やオーバードープ領域と反強磁性金属のCrや(Mn,Fe)3Siに見られる「チムニー構造」との関連性を明らかにしていく。今後は、別の遍歴電子反強磁性体(FeSbやFeMn合金)においてもチムニー構造が見出せるか調査し、平行して、金属強磁性体Ni, Fe, Coの、sub-eVに及ぶ広いエネルギー域で金属強磁性相関の解明に挑戦する。 多層系銅酸化物超伝導体がどのような磁気励起を示すのか、全くわかっていない、3層系Bi銅酸化物では単結晶育成が長時間周期で変動するという現象が明らかになった。今年度は、精密に分析された結晶組成を原料棒組成にフィードバックすることによって、更なる大型化(目標1mm厚以上)を図り、中性子散乱実験を目指す。 3号炉が、今年度の秋以降に再稼働する可能性はあるので、それまでに、作成したホイスラー単結晶のインゴット全ての切断を終え、熱処理方法をできるだけ確立させ、再稼働と共に、偏極モノクロメータ、アナライザの製作を目指す。
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