クロムホランダイトK2Cr8O16において発見した強磁性を維持したまま金属から絶縁体に相転移する機構を解明するため、放射光X線回折による詳細な構造解析と電子構造計算を行った。結果、強磁性絶縁体相では結晶系が単斜晶に変化し、Crの結晶学的サイトは4種類になるが、Cr-O結合長はほとんど同じで、電荷分離/電荷秩序は見られず、代わりに、4種類のCrサイトが作る鎖よりなるカラム(4鎖カラム)において、特徴的なCr-O結合交替すなわちカラム格子の2量体化が観測された。一方、電子構造計算からは、K2Cr8O16は4鎖カラムに基づく擬一次元電子系であることが示され、パイエルス不安定性を持つことも明らかとなった。観測された4鎖カラムにおける格子の2量体化はまさに金属絶縁体転移がパイエルス転移であることを示している。 K2Cr8O16はCr3+/Cr4+=1/3の混合原子価物質で、4個のCr4+あたり1個の余分の電子を持っている。従って、4鎖カラムにおける格子の2量体化を伴い金属絶縁体転移(パイエルス転移)を起こす際、1個の余分の電子は4つのCrに弱く局在する(Crの四量体化)ことになる。構造データを用いたバンド計算からは、フェルミ面にギャップが生じ絶縁化することが明らとなったが、 ギャップはバンド幅に比して非常に小さく、強磁性バンドにギャップが開き、強磁性を維持したまま絶縁化することが明らかとなった。これは、非常に珍しい完全スピン分極した電子が示すパイエルス転移である。この珍しい強磁性金属絶縁体転移は、バンド充填と構造との絶妙の均衡の上に成り立っている。また、格子の2量体化には単位格子の上半分でCr4量体化が起こる場合と下半分で起こる場合の2種類があり、それらが縞状に配列した構造をとるが、これは、格子歪と静電力との競合によると理解される。
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