クロムホランダイトK2Cr8O16は180 Kで金属強磁性転移を示し、95 Kでさらに強磁性を維持したまま絶縁体に転移する。本研究はこの強磁性金属―絶縁体転移の機構解明を目的としている。単結晶を用いた放射光X線回折測定による高温強磁性金属相および低温強磁性絶縁体相の詳細な構造解析と第一原理計算による電子構造解析の結果を合わせて、CrO6八面体からなる1次元鎖の4本で作られる4本鎖カラムで特徴づけられる擬1次元電子系におけるパイエルス不安定性により、格子の2量体化とCrの4量体化を伴って電荷分離・秩序することなく強磁性のまま絶縁化する機構を解明した。 さらに、圧力により強磁性転移は抑えられるが、金属―絶縁体転移は堅固で、13 GPaまでの範囲では抑えられないことをあきらかにした。強磁性は、強磁性転移温度が金属―絶縁体転移温度と交差するところで消失し、基底状態は反強磁性となることも見出した。 核磁気共鳴測定も行い、低温強磁性絶縁体相ではわずかに電子状態の異なる4つのCrサイトが存在することを見出した。 関連研究として、Mnホランダイトの高圧合成と構造・物性の評価を行い、Mnホランダイトの場合は、K-空格子点の長距離規則配列に伴いK-空格子点近傍のMnにeg-電子がトラップされ、結果、Mn4+とMn3+の電荷分離・電荷秩序が起こることを見出した。 発展的研究として層状ペロフスカイト物質Bi4V2O11-yの酸素不定比性と構造・物性の研究を行い、還元に伴い、V-O層からBi-O層への酸素欠損のスウィッチ、バナジウムからビスマスへの還元スウィッチ、特徴的な酸素秩序配列構造、1次元磁性など、新奇な現象を見出した。
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