研究概要 |
本研究の目的は、有機芳香族分子固体への電子あるいはホールのドーピングによる電子状態制御を通じた超伝導特性の発現である。22年度中に、K,RbならびにCaをピセンにドーピングして超伝導を実現するとともに、コロネンへのアルカリ金属ドーピングで超伝導を実現した。23年度の独自の研究成果を以下に箇条書きで列記する。 (1)ピセンへのSrならびにBaのドーピングによる超伝導の実現 (2)ラマンを使ったアルカリ金属のピセン結晶へのドーピング量の特定と作製される相の決定 (3)ピセン超伝導体の超伝導機構の解明に向けて電子格子結合定数評価と状態密度の比較 (4)フェナントレンへのSr,Baのドーピングによる超伝導の実現と低温X線回折実験 (5)電界効果による有機芳香族薄膜・単結晶へのホールドーピング (1)については、今回Ca以外のアルカリ土類金属原子をドーピングすることに成功し、Sr_<1.5>piceneでT_c=5K、Ba_<1.5>piceneでT_c=9Kの超伝導転移温度であることを示した。(2)についてはアルカリ金属原子をピセン結晶にドーピングすることによって、電子がピセンに供与されてラマン振動数が低振動数側にシフトしていくことを利用し、アルカリ金属原子ドーピングで形成される相は、K_xpicene, Rb_xpiceneともにx=1とx=3のみであることを明らかにした。(3)に関しては、理論的に電子格子結合定数を評価しこの系の超伝導の特徴を明らかにした。(4)に関しては、Sr_<1.5>phenanthreneについて20%程度の超伝導フラクションを有する試料のX線回折測定を行った。その結果、Srはピセンと同じくab面内に入ること、温度の低下に伴ってaとbは減少するが、cはほとんど変化しないか、少し広がることを見出した。(5)についてはピセン薄膜ならびに単結晶に対してイオン液体を使った高濃度電界効果ホールドーピング(あるいは電気化学ドーピング)を行うことに成功した。また、低濃度蓄積ではあるが、高誘電ゲート絶縁膜を含む固体誘電膜を使った高移動度の有機芳香族薄膜電界効果トランジスタの作製に成功した。
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