研究課題/領域番号 |
22244045
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
久保園 芳博 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (80221935)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 超伝導 / 有機芳香族分子 / 炭素系分子 |
研究概要 |
本研究の目的は、有機芳香族分子固体への金属原子ドーピングによる新規超伝導体の作製と、超伝導機構の解明である。有機芳香族分子結晶にアルカリ金属ならびにアルカリ土類金属原子を挿入して、高超伝導体積分率の超伝導試料を作製すること、超伝導転移温度を上昇させることが目的である。24年度は、ピセン超伝導体について以下の研究成果を得た。 ①ピセン超伝導体におけるゼロ抵抗率の確認:従来からの懸案であったK原子を挿入したピセン超伝導体結晶における電気抵抗率測定に成功した。1個の試料(K3.1picene)は、7 K以下で急激に電気抵抗が下がり始めた。これは、これまで我々が磁化から確認してきた7 K超伝導相と考えられる。また、もう一つの試料(K3.5picene)については11K付近から急激な電気抵抗率の低下が観測され、ゼロ抵抗率が確認された。この相については18 K相と同定した(ファンデルポー型の端子接続のため超伝導転移温度が低く見積もられている)。この結果は、Physical Review Bにおいて公表され、Highlighted Articleに選ばれた。 ②ラマン分光を用いる金属ドープ量の定量化と18 K相の確認:ラマン分光を用いてKやRbをドーピングしたピセンの電子移動量を見積もる方法を明らかにした。これは、1378 cm-1に観測されるピセンのピークが、電子がピセン分子に供与されると低波数シフトすることを基にしたものである。これより、超伝導を示す試料では3個の電子がピセン分子に供与されていることが明らかになった。また、18 K相でのK原子の挿入位置を明らかにすることに成功した。この結果はについても、Physical Review BでHighlighted articleに選ばれた。 なお、ピセン以外にフェナセン系分子結晶へのアルカリ金属原子挿入で超伝導体を得ることにも成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、有機芳香族分子結晶へのアルカリ金属ドーピングで複数の超伝導体を作製することに成功している。24年度までに、ピセン超伝導体の結晶構造・磁化率測定・電気抵抗測定を詳細に行ってきた。また、超伝導体におけるピセン分子への電子移動量を同定する方法についても考案し、超伝導相での電子移動量を確定した。また、新規の超伝導物質をピセン以外の有機芳香族分子を使って作製することもできている。具体的には、[6]フェナセン、 [7]フェナセン、コロネン、コラニュレンで超伝導に伴う磁化率の低下(反磁性磁化率の出現)が観測されている。これらの結果のうち、ピセン超伝導体でのゼロ電気抵抗率の観測と結晶構造・電子移動量の同定については、24年度にPhysical Review Bにおいて公表され、Highlighted articleに選ばれている。これらの結果から、研究は順調に進んでいると判断できる。しかしながら、超伝導体積分率が高い試料でも10%程度であって、新規の超伝導物質に限っては1%程度にとどまっていることは最大の問題である。ピセン超伝導体の再現性については、我々以外のいくつかのグループで、電気抵抗率からピセン超伝導体の超伝導転移を観測しており、超伝導体の存在については認知されているが、磁化率で高い超伝導体積分率のものが簡単には作製できないことが問題となっている。したがって、目下の最大の研究課題は、試料の効率的作製法(高い超伝導体積分率を有する試料の簡便作製法)を示すことである。なお、フェナントレンやジベンゾペンタセンといった試料については別グループから超伝導体の作製報告が出ており、比較的高い超伝導相が得られている。以上、まとめると本研究課題については、24年度までに順調な研究遂行がなされているが、克服すべき課題がいくつか存在しており、これを25年度中に解決する必要に迫られている。
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今後の研究の推進方策 |
研究遂行上の課題として、最初に達成するべきことは、「有機芳香族超伝導体の高体積分率試料作製に関するマニュアルを作製すること」である。すなわち、我々以外のいかなるグループでも簡単に試料を作製することができるようにすることが重要である。次に、ピセン超伝導試料の組成と構造を明らかにすることを第二の課題として提起する。これにより、この系の超伝導の機構が解明されることになる。この目的のために25年度は、以下の研究を実施する。 ①アニーリング法とアンモニア合成法の併用による高超伝導体積分率試料作製:これまでに進めてきたアニーリング法による試料作製について、今一度、アニーリング温度、アニーリング時間、金属ドーピング量、試料作製用金属チューブ内体積、試料作製用金属チューブの種類等を詳細に変えて、得られる試料の超伝導体積分率を調べる。これにより、試料合成上の最適条件を調査する。また、得られた試料について、X線回折、ラマン測定、元素分析を行って、組成、電子移動量、構造(格子定数)を評価する。さらに、アンモニア合成法を様々な条件で行って(反応温度、時間、アンモニア量を変える)、得られた試料の磁化率測定ならびにX線回折・ラマン散乱測定と元素分析を行う。これによって、「高超伝導体積分率の試料作製のためにアンモニア合成法をどのように活用すべきか」をはっきりさせる。 ②超伝導相の組成と構造解明:高い超伝導体積分率試料を使って、その組成を元素分析、X線回折ならびにラマンで決定する。高い超伝導体積分率試料については、放射光X線回折実験を行い、Rietveld解析によって結晶構造を決定する。また、超伝導体積分率に相関して変化する物理パラメータ(たとえば金属ドープ量、格子定数、移動した電子数)を見つけ出す。これによって、どのような組成が超伝導なのかが最終的に明らかになるものと期待される。
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