研究課題
平成25年度は、Rbxpiceneの14%の超伝導体積分率の試料を合成することに成功した。仕込値として、x= 3.8の試料を作製し、250℃で15日間アニーリングすることにより、超伝導体を得た。磁化率から求めた超伝導転移温度は、11.5 Kであって、以前我々が得ているRb3piceneの7 Kより高い。25年度に、大阪大学の研究グループと協力して、Kxpiceneの高圧合成に取り組んだ。第一に、我々のグループで、7 Kで超伝導転移を示すK3picene試料を通常のアニーリング法で作製し、これの高圧での電気抵抗を測定した。その結果、4.1 GPaまで加圧したときに、電気抵抗率が11 K付近から急激に低下することを見いだした。高圧では電極端子との接触ならびに超伝導相間の接触が良くなって、超伝導転移に伴う電気抵抗の急激な低下が観測された。「電気抵抗が最低値に落ちる半分の電気抵抗を示す温度」は、5.6 Kであった。これが磁化率から求めた超伝導転移温度と一致すると仮定すると、「7 K相では圧力印加とともに超伝導転移温度が減少する」という我々の以前の結果と一致する。Kとpiceneをダイヤモンドアンビルセル内に挿入し、圧力を印加することによって、加熱しなくても超伝導体が作製できることがわかった。得られた超伝導体は18 K超伝導相である。その場合、印加圧力を増加させると、超伝導転移温度が増加しており、5.1 GPaで39 Kに達する。この結果は、以前、我々が磁化率から、「18 K超伝導相においては印加圧力の増加とともに超伝導転移温度が上昇する」という結果を得ていることと無矛盾である。これらの研究成果は、現在、論文としてまとめているところである。さらに、KやRbを挿入したpicene超伝導体に加えて、Liをドーピングしたpicene超伝導体の合成に成功した。また、電気化学反応を使った超伝導体合成や、電気二重層キャパシタを使ったキャリア誘起についても実験を進めている
2: おおむね順調に進展している
Kxpiceneの超伝導相の実現のために多様な方法での合成法を開拓しており、高温アニール法以外に、液体アンモニア法による超伝導体合成に成功している。25年度には、新たに高圧合成法によってpicene超伝導体を合成することに成功した。得られた結果は、この科研費の課題に関する研究で、磁化率から明らかにしてきた「7 K超伝導体の圧力印加による超伝導転移温度低下」、「18 K超伝導体の圧力印加による超伝導転移温度上昇」という結果を支持するものである。24年度に、電気抵抗率からゼロ抵抗率の確認に成功しているが、25年度も高圧下でのゼロ抵抗率を確認できており、この超伝導体の特性解明が進んでいる。なお、超伝導体の大量合成のために、高圧合成法が有効であることが示唆されているので、これをもとに、超伝導体積分率の高い試料の合成と、結晶構造の完全解明、超伝導物性の解明に向けての研究を進めていく予定である。なお、25年度は、圧力下で超伝導転移温度を39 Kまで上昇させることに成功した。また、関連して、電気化学的手法による超伝導体合成にも着手しており、C60を使った予備的な超伝導体合成に成功している。これは、picene超伝導体合成に電気化学的な手法が使えることを示唆するものである。また、Liをドーピングした時に超伝導体が形成することを発見しており、多様な超伝導体合成を着実に進めている。なお、電界効果キャリア注入により、piceneを始めとするフェナセン系分子への高濃度キャリア注入実験を進めており、付属の実験結果として、高移動度・定電圧駆動のトランジスタの実現、単結晶では金属化の確認などを得ている。これらの結果は、多様な芳香族超伝導体の実現に向けての研究が着実に進んでいることを示している。
26年度は、25年度の成果を生かして、超伝導体積分率の高い試料を以下の方法で作製する。1)高圧合成法による金属のpicene結晶への挿入によるバルク超伝導体の合成。電気抵抗のみならず、磁化率から超伝導体の合成を確認し、これをバルク試料として得るとともに、結晶構造ならびに比熱などの超伝導体の基本物性を明らかにする。2)電気化学的な手法によって、金属のpicene結晶への挿入を進めて、超伝導体積分率の高い試料を作製する。これの構造と物性を明らかにする。3)高圧下によって、Kxpiceneの超伝導転移温度が上昇して39 Kに達しているので、現在、この系での世界最高超伝導転移温度が実現していることになる(少なくともKxdibenzopentacene(33 K 超伝導相)より高い超伝導体が実現している)。この成果をもとに、さらに高い超伝導転移温度を実現するため、K以外の金属をドーピングしたpiceneやフェナセンでの超伝導転移温度の圧力依存性を調べる。これまで行ってきたアンモニア合成法などについても工夫を凝らして、新規なフェナセン超伝導体の開発と、超伝導体積分率の上昇、結晶構造の確定、比熱を始めとする超伝導の基本物性を解明するのに全力を傾注する。
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