研究課題/領域番号 |
22244049
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
麻生 洋一 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10568174)
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研究分担者 |
香取 秀俊 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30233836)
洪 鋒雷 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 研究員 (10260217)
李 瑛 独立行政法人情報通信研究機構, 電磁波計測研究所 時空標準研究室, 研究員 (30415848)
坪野 公夫 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10125271)
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キーワード | 周波数標準 / レーザー安定化 / 熱雑音 |
研究概要 |
単結晶シリコン製共振器を納めて冷却するためのクライオスタットを製作し、その性能評価を行った。このクライオスタットには、低振動を実現するため、ヘリウム再凝縮型の冷凍機が取り付けられている。この冷凍機は、ガスチャンバー内で液化したヘリウムを通して被冷却物と熱交換を行う。その際の冷却効率や速度は、ガスチャンバー内の圧力によって変化する。特に、常温から冷却を開始した当初と、最低到達温度付近では最適な圧力が異なる。そのため、冷却試験を繰り返し、最適なガス圧条件を求めた。さらに、この冷凍機と接続されるシリコン共振器には、常温からの輻射や熱伝導による入熱が存在する。これらを最小に抑え、かつ共振器の支持機構に充分な機械的強度を担保するための、断熱スタック及び輻射シールドを開発した。これらを組み合わせた結果、共振器を5Kまで冷却することに成功した。これは、当初目標の18Kを大幅に更新するものである。また、この状態での温度安定度の測定を行った。しかし、温度があまりにも安定であったため、実際の温度安定度を直接測定することは、温度計の読み取り回路雑音に制限されて不可能であった。そこで、入熱経路の伝達関数測定から温度揺らぎの上限値を求めた。これは、スペクトル密度で400nK/sqrt(Hz)@1Hz以下であり、温度揺らぎの要求値をほぼ満たしている。 今年度はまた、光共振器本体の光学性能評価を実施した。プレ安定化レーザーで光共振器の周波数スキャンを行いフィネスの測定を行った。しかし、現時点では鏡研磨の表面粗さが想定より大きかったため、1000程度のフィネスに留まっている。そこで、研磨会社と検討を重ね、より表面粗さを10倍以上改善した研磨に成功した。この鏡基板を用いた共振器は今年度末に納品され、現在評価を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の最終目標は10の-17乗台の周波数安定度を持つレーザーの開発である。そのための鍵となる技術は、高性能な単結晶シリコン製共振器と、それを18K程度まで冷却する点である。このうち、冷却に関しては当初の想定以上に低い到達温度(5K)を達成し、開発は成功した。一方で、シリコン共振器に関しては、研磨に関する技術的困難により開発が遅れている。 光共振器の性能は、鏡表面における光学損失に反比例する。低損失の鏡を制作するには、その表面を究極的な滑らかさに研磨する必要がある。共振器を構成するには、この鏡をスペーサー両端にオプティカルコンタクトで接着する。そのために、曲率を付けた鏡の周辺部分には平面研磨部分を作成する必要がある。一方、本研究では熱雑音の影響を最小に抑えるため、共振器鏡上でのビームスポットサイズを大きくする必要があり、そのために鏡の曲率半径をこの種の鏡としては非常に大きい、3mに設定している。この場合、平面研磨時に曲率部分に傷を付けてしまう危険性が高まる。そこで当初、比較的自由な曲面研磨が可能な磁気流体研磨法を用いて鏡を製作した。しかし、この方法では形状精度は高いが、表面粗さが悪く、光学損失が増加してしまった。そこで、研磨会社と検討を重ね、より低い表面粗さを達成可能なオスカー研磨法を用い、かつ曲率部分に傷を付けない研磨法を開発した。その結果、表面粗さが1.6オングストローム程度と、充分な品質を持った鏡基板の開発に成功した。現在この基板を用いて共振器を製作し、その試験を行なっている。以上の研磨法開発の過程で、想定以上に時間がかかったため、当初計画よりも研究の進展が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、新しい研磨法で製作された共振器の試験を進め、振動感度等の基礎データを取得する。その後、冷却状態でレーザーをこの共振器にロックする。そのために必要な物品は全て揃っている。このレーザーの安定度を評価するため、理化学研究所香取研究室に存在する他の安定化レーザーとの周波数比較を行う。また、単純にレーザーをロックしただけでは、様々な雑音によって、安定度が制限されてしまうと想定される。特に、レーザー制御に用いる誤差信号取得用のRF変調サイドバンドの振幅揺らぎ雑音(RFAM雑音)と、光ファイバーで付加される位相雑音が大きな問題になると考えられる。これらをキャンセルするための方法は設計済みであり、そのための光学系を構築し、対策を進める。
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