研究課題
タンパク質が水中で作動する際の水和構造の役割や影響を理解するため、2つの機能ドメインで形成されたタンパク質に着目して、そのドメイン運動における水和構造変化を結晶学的、計算科学的研究によって可視化してきた。これまでに得た知見を総合すると、ドメイン運動に要する時間は数十から百ピコ秒であり、その際には、ドメインに挟まれた領域の水和構造が協奏的に再構成するというシナリオが浮かび上がってきた。本課題では、タンパク質の内部運動と協奏する水和水集団運動の実験的検証と理解を目指し、ドメイン間領域に存在するトリプトファン周辺での水和水集団運動を、ピコ秒時間分解和周波蛍光測定法によって観測することを目的としている。本年度は、測定システム構築、改変タンパク質の作出などを実施した。A.フェムト秒蛍光時間分解測定システムの構築本年度作成したタンパク質表面トリプトファン蛍光時間分解測定システムは、光源にチタン・サファイアレーザー、3次高調波発生(THG)装置、光学遅延回路ステージ、各種反射鏡、1/4波長板、溶液試料ステージ、蛍光光を集めるための楕円鏡、非線形光学結晶(BBO)、非線形光学結晶回転ステージ、分光器、光電子増倍管、および、データ収集用電子回路等で構成される。本システム一式は、遮光用箱内の光学定盤に設置され、湿度・温度環境が保たれる。光学遅延回路ステージ、溶液試料ステージや非線形光学結晶回転ステージの制御のためにソフトウエアを自作した。B.トリプトファン改変タンパク質の作出とその立体構造解析GDH六量体の各サブユニットには12個のトリプトファンが存在する。まず、野生型の分子動力学計算トラジェクトリーにおいて、Trpの溶媒接触を評価し、水分子と直接相互作用可能なTrpを同定し、GDH遺伝子大量発現用ベクターにおいて、Trp残基をTyr、Phe、LeuあるいはAlaに改変したGDH試料を複数作出した。C.トリプトファンからの蛍光時間変化を説明する水和ダイナミクスモデルの検討トリプトファン側鎖周辺での水和水あるいはその集団運動によってトリプトファン周辺にどのような摂動が生じうるのかを、分子動力学計算トラジェクトリーを用いて考察するためのソフトウエアの雛型を開発した。
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