研究課題/領域番号 |
22244058
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
R・G Greve 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (90374644)
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研究分担者 |
阿部 彩子 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (30272537)
杉山 慎 北海道大学, 低温科学研究所, 講師 (20421951)
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キーワード | 氷床 / 棚氷 / 力学 / 数値モデル / 南極 / グリーンランド / 気候変動 / 海面上昇 |
研究概要 |
2010年度に実施された予備的な研究結果に基づいて、沿岸部の棚氷を含んだ南極氷床全域の氷期・間氷期における変動を、氷床モデルSICOPOLIS (SImulation COde for POLythermal Ice Sheets ; http://sicopolis.greveweb.net/)によって計算した。この実験は水平方向の解像度10および20kmのメッシュを使って行い、SeaRISE ("Sea-level Response to Ice Sheet Evolution" ; http://tinyurl.com/srise-lanl, http://tinyurl.com/srise-umt)によって規定された気候変動シナリオを外部強制として用いた。計算された現在の氷床表面流動速度は、内陸で年間10m以下と小さく、沿岸に向かって加速して、棚氷では年間1000mまたはそれ以上の値となった。これらの結果は観測結果から予想されるものと整合している。次に、計算された現在の氷床形状を初期条件として、SeaRISEによって提案された"2011 Sensitivity Experiments"と呼ばれる数値実験を実施した。この実験は、参照実験の他、氷床表面の気候、棚氷の底面融解、底面すべりなどの条件が規定されたものである。20kmの解像度で行った実験結果はSato and Greve(2012)として公表され、10kmの解像度で行った実験結果は、SeaRISEコンソーシアムに提出された。SeaRISEコンソーシアムはこれらのデータを取りまとめて論文とし、その成果はIPCCの第5次報告に貢献するものである。これまでの実験結果から、氷床の変動はまず棚氷の底面融解に、次に底面すべりの順に強く影響を受け、氷床表面の気象には余り影響を受けない、という傾向が明らかになった。全ての実験結果を総合すると、将来100年および500年後における氷床質量の変動幅は、海水準相当で表すとそれぞれ約1.3mおよび約3.3mである(佐藤建、学位論文)。SeaRISEによって規定されたグリーンランドに関する数値実験は、SICOPOLIS、IcIES (Greve et al. 2011)およびフルストークスモデルElmer/Ice(Seddik et al. 2012)によって実施した。それらの結果も、SeaRISEコンソーシアムに提出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に記されている通り、過去および将来の気候条件下での南極氷床の変動を、高い空間分解能で計算することができた。それらの結果は、SeaRISEコンソーシアムに提出されている。同じ実験がグリーンランド氷床に関しても実施され、フルストークスモデルElmer/Iceによって実験を完了したことは大変意義深く、この分野における一里塚となるものである。一方で南極氷床に関してはElmer/Iceによる実験は進んでおらず、今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
将来500年にわたる南極およびグリーンランド氷床変動を予測するために、最近になってSeaRISEから新しい実験条件が示された。SeaRISEの実験を完遂するため、この実験を両氷床について実施する。SeaRISEと同様に、基準となる気候条件下で南極およびグリーンランド氷床の変動を予測する共同実験の計画が、ヨーロッパ主導のプロジェクトice2sea (http:/www.ice2sea.eu/)で進められている。その基準条件が2012年中に公開される予定であり、もしタイミングが合えば、この実験に参画する予定。また、南極氷床のドームふじ基地からリュッツォホルム湾にかけての流域に着目して、この流域の主要な氷河であるしらせ氷河が、流域の質量変動に果たす役割を解明するための数値実験を実施する。
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