研究概要 |
本研究の目的は,スラブ起源流体によるマントルウェッジの変形変成作用である蛇紋岩化のプロセスと研究代表者がこれまでに進めてきたカンラン岩の研究と総合して,マントルウェッジの流動・変成過程を明らかにすることである.静岡大学チームは,海洋底の岩石研究の成果がまとまった他,カンラン岩捕獲岩の研究でも一定の成果があった.また,蛇紋岩の構造解析として蛇紋石相による変形様式の変化を夜久野オフィオライト待ちの山岩体で確認した.富山大学チームは,構成鉱物の弾性定数および結晶方位分布から蛇紋岩の弾性定数を推定するための計算方法の研究を進めた.アンチゴライトのような弾性的異方性が強い鉱物を含む場合,従来のVoigt平均,Reuss平均による見積もりは不確定性が大きい.これは,鉱物粒子の形状や配列等が考慮されていないためである.われわれは,実測値がReuss平均に近い低速度であることに着目し,アンチゴライト粒子の形状を考慮した蛇紋岩の弾性定数の計算方法を開発した.従来に比べて格段に地震波速度の推定精度が向上した結果を得た.広島大学チームでは,蛇紋岩の実験研究を進めた.沈み込むプレートから脱水反応により放出された流体は,一般的にその浮力のため直上に移動すると考えられているが,プレート境界に存在する蛇紋岩では剪断変形による面構造が著しく発達しているため透水率に異方性が生じ,流体移動が面構造(応力場)に制約される可能性がある.蛇紋岩の透水率異方性を検証する透水試験を行った結果,蛇紋岩の片理に垂直な浸透率は片理に平行なものに比べ系統的に低い値を示した.このことから.脱水反応によりマントルへ放出された流体は蛇紋岩の面構造に沿いプレート境界方向に選択的に移動すると予想される.
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