研究課題
本研究の目的は,スラブ起源流体によるマントルウェッジの変形変成作用である蛇紋岩化のプロセスと研究代表者がこれまでに進めてきたカンラン岩の研究と総合して,マントルウェッジの流動・変成過程を明らかにすることである. 本年度は,北海道日高帯幌満かんらん岩体と東北地方の宮守・早池峰岩体の調査を実施して前弧側かんらん岩の実体調査を進めた.さらに比較研究としてタスマニア産のかんらん岩捕獲岩の構造岩石学的特徴を明らかにした他,石英の結晶粒成長過程について高温高圧装置を使って明らかにした.また走査型蛍光X線分析顕微鏡を用いた層状はんれい岩の組織解析を試行した結果を報告し,オマーンオフィオライトの海洋地殻―マントル境界に発達した延性剪断帯と加水による軟化作用を詳細に解明した.
2: おおむね順調に進展している
静岡大学チームは,トンガ海溝とマリアナ海溝の調査が進展し,マントルウェッジの初期発達構造についての知見が得られる見通しが立った.また,前弧側の蛇紋岩化作用に関して,定常的な沈み込み帯が確立する以前から蛇紋岩ゾーンが存在している可能性を見出した.富山大学チームは,アンチゴライトの粒子形状を考慮した弾性定数の計算を行った.われわれは,前年度に開発した粒子形状を考慮した計算方法を応用して,等方的な蛇紋岩の弾性波速度(常温,常圧)を求め,P波,S波それぞれ,6.70 km/s,3.78 km/sという値を得た。これから得られるVp/Vsは1.77であり,実測で得られている1.8とほぼ一致する。この結果を地震波速度トモグラフィの解釈に応用すると,紀伊半島下のウェッジマントルなどで得られている1.8を大きく超えるVp/Vs(Hirose et al., 2008)は,蛇紋岩化だけでは説明できず,流体が存在を意味していると考えられる。広島大学チームでは高圧透水変形実験により,沈み込み帯を構成する岩石の浸透率を測定している。これまでのところ,マントルと水が反応し形成される蛇紋岩では浸透率の異方性が確認され,プレートからマントルへ放出される水はプレート境界方向に選択的に移動することが分かった。
平成25 年度はトンガ海溝調査を最優先させる.申請者は平成21 年度からトンガ海溝で採取されたかんらん岩とはんれい岩の研究をしてきた.これらの岩石試料は1996 年にアメリカチームがドレッジ調査によって得たものを使用し,この予察研究からトンガ海溝かんらん岩が沈み込み帯初期構造を保持しているとの着想を得た.そこで本研究では,大きな岩石試料を得るために平成25 年度の秋(10/3-10/19)に日本としては初めてのトンガ海溝調査を予定している. 本調査では,JAMSTEC のしんかい6500によってトンガ海溝陸側斜面を4 潜航する.さらに同じ航海中に,JAMSTEC の地球生物学研究チームが研究母船よこすかからトンガ海溝最深部にランダーとよばれる深海採泥機器を7 回投入する.この研究航海によってトンガ海溝陸側斜面のかんらん岩・蛇紋岩・はんれい岩を採取する予定である.また本研究課題の最終年度としてこれまでの研究成果をまとめ今後の研究方針を構築していく.
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すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (32件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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