研究概要 |
平成22年度は,まず新しい機器(Gas chromatography/combustion)を導入し,炭素および窒素安定同位体比測定に関する研究環境を整えることをおこなった。そのうえで,日本海で採取された堆積物試料について分析を開始した。まず,最終氷期に堆積した有機物に富む「TL-2層」からクロロフィルaの分解生成物であるフェオフィチンaおよびパイロフェロフィチンaを単離し,その窒素同位体比を測定したところ,いずれも-5‰付近の値を示した。このことは,海面が低下して塩分が低下した最終氷期の日本海表層において,おそらくシアノバクテリアによって窒素固定が盛んに行われ,脱窒プロセスによって窒素源に枯渇しがちな海洋に窒素を導入していたことが示唆される。これは,地中海のサプロペルや白亜紀の黒色頁岩などと全く同じ海洋表層環境が出現していたというきわめて重要な可能性を示唆している。さらに,それ以前のMarine Isotope Stage-3(MIS-3)に堆積した有機物に富む層から同じくクロロフィル分解生成物の窒素同位体比を分析した。その結果,それらは0‰付近の値を示し,MIS-3の時期は,主に硝酸を基質としてとりこむ藻類が主要な一次生産者であったことを示した。 また,以前から取り組んでいた黒海および水月湖で採取された堆積物中のクロロフィル色素の窒素同位体比をもとに水界の窒素サイクルを復元した研究を専門誌に発表した。いずれも化合物レベルの窒素同位体法が,古環境における窒素サイクルを復元するのにきわめて有用な方法論であることを追認した。
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