研究課題/領域番号 |
22245002
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
平田 文男 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 教授 (90218785)
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研究分担者 |
吉田 紀生 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (10390650)
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キーワード | 3D-RISM / イオンチャネル / ダイナミクス / 分子認識 / 一般化ランジェヴァン方程式 / KcsAチャネル |
研究概要 |
KcsAカリウムチャネルのイオン選択性と透過機構を調べるため、このチャネルの選択フィルター領域内における正イオン(K^+,Na^+,Li^+)および水分子の分布を3D-RISM理論によって計算した。その結果、上記の全てのイオンに関して、フィルター内に顕著な分布を見出した。この結果は、Na^+やLi^+はKcsAフィルター内に結合できないとする従来の直感的描像を否定している。一方、その結合サイトおよび結合モードはイオンによって全くことなることが分がった。K^+はフィルターを構成するアミノ酸残基から出ている8個のカーボニルグループのほぼ中心(cage site)に水分子と交互に結合する。一方、Li^+は4個のカーボニルグループが作る平面の中心(plane site)に結合し、さらにそれを上下のcage siteに結合した水分子が安定化する。また、Na^+イオンはcage siteとplane siteの両方に幅広く分布することが分かった。 それでは、イオンの選択性は何に起因するか?この疑問に答えるため、チャネル軸に沿ったK^+とNa^+の平均力ポテンシャルを3D-RISMにより求めた。その結果、まず、フィルターの両端からチャネル内に侵入する場合の活性化障壁の高さを比較するとNa^+がK^+に比べて約2kcal/mol高い値を示した。これは、K^+の方がチャネル内に侵入しやすいことを意味する。さらに、チャネルの内側から抜け出る場合の活性化障壁を比較すると、Na^+は約10kcalの高い障壁をもっているのに対して、K^は障壁の途中(5~6kcal)に局所的な極小値が存在し、この極小領域を踏み台としてチャネル外に抜け出ることができる可能性を示唆している。我々はこの結果をもとにK^+の透過機構に関する新しいモデル(rock climbing model)を提案した。 (PNASの投稿中)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3D-RISM理論に基づく計算により、KcsAチャネルのイオン選択性と透過機構に関する従来の概念を否定し、新しいモデルを提案した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は次のふたつの課題で研究を進める。 (1)最近、ナトリウムチャネルのX線構造が決定された。これまで、KcsAチャネルい対して行なって来た解析を、ナトリウムチャネルに適用し、そのイオン選択性と透過機構を調べる。 (2)一般化ランジェヴァンダイナミクスの数値計算アルゴリズムを完成し、これをチャネルのゲーテイングのダイナミクスに応用する。
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