研究概要 |
イオンチャネルは生物内の情報伝達機構において中心的な役割を担う分子機械である。本研究は、イオンチャネルのイオン透過機構とその選択性を分子レヘルて制御する理論的方法論を構築することを目的に、1. KcsAチャネルのイオン選択性、2. KcsAイオンチャネルの動作機構解析、3. 不均一RISM理論の構築、を課題として遂行した。その成果を課題毎に述べる。 (1) KcsAチャネルのイオン選択性を明らかにする目的で、その選択フィルター内部でのLi+, Na+, およびK+の水和構造に違いを詳細に調べた。選択フィルター内のイオンの結合位置は概ね二つ分けることができ、それらが交互に配置されている:8個のカルボニル基に囲まれた空孔(ケージサイト)、および4個のカルボニル基が作る平面の中心(プレーンサイト)。3D-RISM理論に基づく計算の結果、以下のことが明らかになった。イオンが存在しないとき、水分子はケージサイトに結合している。Li+はプレーンサイトに結合し、その両隣のケージサイトにある水分子を配位している。K+はケージサイトに結合しており、水分子を直接配位していない。また、Na+はプレーンサイトとケージサイトにまたがって結合しており、その間の障壁もそれほど高くない。 (2) チャネル内部へのイオンの侵入は開口部の開閉(ゲーテイング)によって制御されているが、この機構はチャネル(蛋白質)の構造揺らぎと密接に関わっている。本研究では、3D-RISM 理論に基づき蛋白質の構造揺らぎとダイナミクスを記述する計算のアルゴリズムを考案した。 (3)チャネル内部の不均一な場の中におけるイオンや水の2体相関関数を求める計算アルゴリズムを考案し、その計算を容易にするため、3D-RISMプログラムとDiscovery Studioとの結合を行った。
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