本研究は、分子特有の運動自由度である振動と回転に着目して、最も基本的な物理学的実存である波動関数を実験的に決定する方法を確立し、さらに、量子状態をデザインどおりに作り出す制御技術の獲得を目的としている。研究初年度である平成22年度は、下記4点の成果があった。 1)分子運動の状態確率分布の時間発展を追跡する「時空間4次元イメージング」のための装置の設計と製作を行った。極低温(<1K)のパルス分子ビームを高繰り返し(1kHz)で生成するノズルソース部、極短パルス光を短焦点で集光可能な相互作用部、および、解離イオンの速度ベクトルを3次元的に計測する検出部から構成される真空チャンバーの組み上げを終了した。 2)当研究グループは、高強度極短パルス光によって生成した回転量子波束の実験的決定法として、パルス対による励起とナノ秒レーザーによる状態選択的検出を組み合わせた方法論を提案し、ベンゼンについて実験的な検証を行っている。本年度は、高繰り返しデータ取得が可能な新計測システムを利用してNO分子について測定を行い、縮重電子状態におけるコヒーレント励起過程に特有な波動関数の位相関係を明らかにした。 3)当研究グループは、偏光面と遅延間隔を適切に設定した高強度極短パルス対を利用すると、右もしくは左回りに回転する波動関数を生成しうることを理論・実験の両面から明らかにしている。この研究の理論的な発展としてイスラエルのグループと共同研究を行い、古典力学的解析が厳密な量子力学的記述を良く再現することを明らかにした。 4)振動量子波束の制御に関しては、高強度極短パルス光によって分子クラスターの分子間振動をコヒーレントに励起することに既に成功している。本年度は、NO-Arクラスターについて理論的な解析を進め、高精度量子化学計算による分子間ポテンシャル上での波束発展を厳密に計算し、実測データを良く再現することを確認した。
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