新規に開発したポンプ・ダンプ・プローブ分光とフェムト秒誘導ラマン分光によるフェムト秒構造化学研究を開始した。ポンプ・ダンプ・プローブ分光による研究では、超高速光異性化をおこす代表的な分子であるシアニン色素の励起状態における核波束運動の追跡を試みた。まずS_1←S_0電子吸収に共鳴する極短パルス光をポンプ/プローブ光として使いS_0状態の褪色を観測した。さらに誘導放出の波長帯に共鳴するダンプ光を照射したところ、褪色信号の瞬時的な減少を確認した。これは反応途中の分子(の一部)がダンプ光によって強制的にS_0状態に引き戻されることに対応し、ダンプ光照射時にS_1-S_0エネルギー差とダンプ光子エネルギーが一致する状態に分子があることを意味する。そこでダンプ光波長を690nm、950nm、1200nmと変えた実験を行った結果、ダンプ効率が最大となる時刻は順に97fs、330fs、390fsのように、ダンプ光子エネルギーの減少とともに遅くなった。この実験結果はS_1、S_0ポテンシャルが近接する"sink領域"に向かって分子構造が有限時間をかけて変化することをあらわしている。これはいわば、反応性励起分子の連続的構造変化の追跡と呼べるものであり、超高速反応を理解する上で概念的に重要な結果といえる(論文投稿中)。一方、フェムト秒誘導ラマン分光による研究では、最重要開発要素の1つである波長可変狭帯域光発生の光学系を開発した。具体的には、正と負にチャープした基本波(800nm)間の和周波として狭帯域第2高調波(400nm)を発生させ、それを励起源とするパラメトリック過程により波長選別したフェムト秒白色光を増幅した。これにより、当初の想定より大幅に強い1~15μJの狭帯域光(帯域幅10~15cm^<-1>)の発生を490~850nmの波長領域で達成した。
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