研究課題/領域番号 |
22245005
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
竹内 佐年 独立行政法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 専任研究員 (50280582)
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キーワード | フェムト秒分光 / 時間分解分光 / 構造ダイナミクス / 誘導ラマン / 超高速反応 / 核波束運動 / 遷移状態 / 光受容タンパク質 |
研究概要 |
独自に開発した低エネルギー光を用いたポンプ・ダンプ分光とフェムト秒誘導ラマン分光を二本柱として、超高速反応分子のフェムト秒構造化学研究を推進した。ポンプ・ダンプ分光を用いた研究では、シアニン分子の励起状態の核波束運動についての詳細な実験結果をまとめた。この結果は、超高速反応の本質を可視化した成果として評価され、J.Am.chem.Soc誌に掲載された。ダンプ波長を赤外領域(~2μm)までシフトした新たな実験においてもダンプ効果が確認された。これは、S_0-S_1光吸収の遷移エネルギーの約1/4まで両状態のポテンシャル曲面が接近した領域での核波束運動を観測したことを意味し、遷移状態近傍分子の分光研究に一歩近づく重要な結果である。さらに、遷移状態近傍分子の瞬時的な振動スペクトルの取得を目指した研究のため、1.2~1.6μm帯の広帯域光の発生およびその20fsへのパルス圧縮に取り組んでいる。 一方、フェムト秒誘導ラマン分光を用いた研究では、(1)狭帯域ピコ秒波長可変光源の第2高調波変換による紫外ラマンポンプ光(250~450nm、15cm^<-1>)の発生、(2)連続移動させたCaF_2板を用いた紫外領域フェムト秒白色光の発生、の2つの改良を行った。これにより世界で初めて、波長可変ラマンポンプ光を用いた紫外共鳴フェムト秒ラマン測定を可能とした。この独自の装置を用いて、光受容タンパク質であるPhotoactive Yellow Protein(PYP)の発色団分子に対する研究を開始した。この分子の励起状態吸収は紫外域のみに観測されるため、本装置によって初めで励起直後の初期構造ダイナミクスの観測が可能となった。実験の結果、光励起後1ピコ秒までにラマンスペクトル形状が明確な変化を示し、この発色団分子が超高速の面内変形を起こしていることを示唆する結果が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポンプ・ダンプ分光による研究では、初期の成果を著名雑誌に報告することができた。また計画に沿って、赤外ダンプ光を用いた実験、瞬時振動スペクトル測定に向けた実験も進んでいる。フェムト秒誘導ラマン分光による研究でも計画通り装置改良に成功し、その独自の装置性能を駆使して既に光受容タンパク質発色団分子からの信号を得ている。こうした状況から、本研究課題は計画通りおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ポンプ・ダンプ分光による核波束運動の追跡およびフェムト秒誘導ラマンの2つの方法論を用いて、遷移状態近傍分子にアプローチすることを意識しながら、フェムト秒構造化学研究を一層推進する。赤外ダンプ光による核波束運動の追跡では、選択的にダンプ遷移を起こさせるように赤外波長を選びながら、より長波長光を使って遷移状態近傍分子の検出に挑戦する。フェムト秒誘導ラマン分光による研究では、発色団分子だけでなく、タンパク質そのものに対する測定を視野に入れている。
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