本研究では、有機ラジカルなどの開殻分子に対する製膜法や電極との接合作製技術を高めながら、これらがつくる絶縁相(パイエルス相、電荷秩序相およびモット相)に対して、積極的に光照射や電子・イオン注入を行うことによってその基底状態を揺さぶり、電子やエネルギー移動を通じて時空間発展する非線形現象を新しい電子機能発現の原理ととらえ、開殻化合物を利用した革新的な有機エレクトロニクスを構築する。フタロシアニン(Pc)を代表とするポルフィラジン化合物は、安定性に優れ、有機エレクトロニクスにおいてきわめて重要な化合物群である。今年度は、このマクロ環の外側にチアジアゾール基をもつ化合物H2-TDPz薄膜について、ITO|H2-TTDPz|Au光学セルを作製し、その光電流を検討した。その結果、バイアス方向に依存してsymbaticあるいはantibaticな挙動が観察され、H2-TTDPzがn型半導体であることが分かった。さらに、SiO_2およびイオン液体をゲート絶縁体とするH2-TTDPz薄膜のトランジスタを作製してについて性能を調べたところ、n型として作動し、移動度は7.2×10^<-4>cm^2V^<-1>s^<-1>、on/off比は10^4であった。多くのPc誘導体はp型特性を示すのに対して、この系はn型特性を示し、Pcとの組み合わせによって新しい機能性を引き出せることが示唆された。
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