前年度までの研究により、[電極1|電荷分離層|絶縁分極層|電極2]を組み合わせた有機光学セルにより、可視光や近赤外を照射することによって巨大光過渡電流の生成に成功している。絶縁分極層としてイオン液体などの電解質を用いた場合、界面電気二重層の形成による巨大電場によって電荷分離が促進される成果を得ている。そこで本年度は、系の誘電特性と電荷分離、さらには過渡光電流との相関を明らかにするため、有機強誘電体の光電変換に対する効果を調べた。このような強誘電体に蓄積された電場に基づく光電流変換は、薄膜型の有機太陽電池の効率を高めるために最近提案さえているものの、詳細な研究はまだない。本研究では、[電極|電荷分離層|有機強誘電体|電荷分離層|電極]として[Al|CuPc|P(VDF-TrFE)|CuPc|Al]なる左右対称の構造をもつ光電セルをつくり、有機強誘電体の電気双極子のみがつくる電場に起因する光電変換特性を調べた。光照射前の電流-電圧(J-V)曲線曲線測定により、20 V以上を印加するによって強誘電層を分極させることができることが分かった。このとき、左から右に強い電場をかけて強誘電層を分極させた場合、右側のCuPcの一部がイオン化して、取り出された電子が左側の電極界面に移動し、ここには10 MV/m にも達する巨大電場が予想された。実際に光照射を行ったところ、応答度0.1 mA/W程度で、有効に過渡光電流を誘起できることが分かった。強誘電体に蓄積された電場に基づく光電流変換について、新機軸を打ち出すことができた。
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