研究課題/領域番号 |
22245022
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
真嶋 哲朗 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (00165698)
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研究分担者 |
藤塚 守 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (40282040)
川井 清彦 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (50314422)
立川 貴士 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (20432437)
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キーワード | 高励起状態 / 分子素子 / 環境汚染物質 / DNA / 電子移動 / 活性酸素 / 過剰電子移動 / ラジカルイオン |
研究概要 |
本研究ではレーザー光の多段階照射や短波長光照射、さらには多光子吸収により生じる高励起状態から進行する化学反応を検討することにより、分子素子の創製、環境汚染物資の分解、光線力学療法への展開を目的としており、今年度は、高励起状態の光線力学療法への適用を指向したDNA内過剰電子移動の検討、および分子素子応用のためのラジカルアニオン励起状態からの電子移動過程の解明を行った。具体的内容は以下のとおりである。 (1)DNA内の電荷移動は生科学での重要性ならびに分子素子応用の観点から注目されているが、その多くは正電荷であるホール移動に関するものであった。DNA損傷の修復過程には負電荷である過剰電子移動が寄与していることに着目し、われわれはDNA内の過剰電子移動速度の直接観測を行った。具体的にはオリゴチオフェンおよびジフェニルアセチレンをDNAに修飾し、オリゴチオフェンを励起することで過剰電子をDNA内に注入し、ホッピングの後に生じるジフェニルアセチレンのラジカルアニオンの生成速度を超高速分光で求めることで、核酸塩基間のホッピング速度を導出した。過剰電子移動速度はホール移動速度より高速であることを始めて明らかにした。 (2)高励起状態から機能発現する分子素子の開発を目的として、すでにラジカルカチオンの励起状態からのホール移動を明らかにしているが、今年度はラジカルアニオンの励起状態からの電子移動過程について分子間および分子内過程の検討を行った。分子間の電子移動過程についてはパルスラジオリシスとパルスレーザーの複合照射によって検討を行い、ナフタルジイミドとピロメリットイミドの系において、高効率な電子移動を生じることを明らかにした。さらに、分子内電荷分離を検討するために両者の結合分子を合成し、過渡吸収測定によりラジカルアニオン励起状態からの電子移動を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子素子への展開に関し、ラジカルカチオンに引き続きラジカルアニオンについてもその励起状態からの電子移動の解明を実現した。環境汚染物質分解に関し、二酸化チタン単一結晶に単一分子分光を用いることで触媒活性種の解明に成功した。さらに、DNAを主とした光線力学療法に関連し、DNA損傷の修復過程に重要な過剰電子移動を高速分光で明らかにした。以上の点より、計画通り研究が進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度となるため、高励起状態が関与する種々の反応過程を包括的に検討していく予定である。具体的には以下の研究を予定している。分子素子への展開については、ラジカルイオン種の励起による電荷移動およびエネルギー移動過程を明らかにする予定である。また、環境汚染物質の分解については引き続き、単一結晶レベルでの検討により、活性種の解明を行う。さらに、光線力学療法応用に関しては、より効率的な電荷移動過程を実現することを目的として、種々の核酸配列での過剰電子移動速度の導出を行うとともに、超交換相互作用に基づく過剰電子移動過程の解明を目指す予定である。
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