研究課題
微生物がバイオマスから生合成する多糖類の一つであるカードランのエステル誘導体を合成し、その基礎物性の評価を行った。8種類の長さの異なるエステル誘導体を50度、1時間の穏和な反応条件で合成することに成功し、全ての誘導体で置換度が3であることを確認した。TGAにより、エステル化により熱分解温度が300度から360度付近にまで上昇することが分かった。さらに、DSCにより熱的性質を測定したところ、アセテート誘導体からヘキサノエート誘導体までは290度から167度の範囲で融点を持つ、結晶性高分子であることが分かった。多糖類誘導体で結晶性を有するものはセルロース誘導体のみで、新たな多糖類誘導体としてその応用が期待できる。ソルベントキャストフィルムおよび熱溶融フィルムはいずれも高い透明性を示し、引っ張り試験の結果、硬い物性(強度25MPa)から柔らかい物性(破壊伸び180%)まで、置換基の種類により物性がコントロールできることが分かった。更に、ソルベントキャストフィルムを3倍以上に熱延伸した配向結晶性フィルムを大型放射光によるX線回折を行ったところ、非常に高い配向性を示す繊維図を撮影することに成功した。現在結晶構造解析を進行中であるが、アセテート誘導体が分子鎖軸方向に6回らせん対称を有するのに対し、プロピオネート以上の誘導体では5回らせん対称であり、非常に興味深い結果が得られた。今後は、詳細な結晶構造解析と、結晶性であることを生かした繊維化などを試みる予定である。一方、昨年度より続けているキシランエステル誘導体のポリ乳酸への結晶核剤効果については、従来のL体のみならず、光学異性体であるD体にも効果的であることが分かった。この結果は、耐熱性ポリ乳酸であるL体とD体を混ぜることにより出来るポリ乳酸ステレオコンプレックス形成にも非常に有効であることを示唆している。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究は、(1)様々な多糖類のプラスチック材料化と(2)微生物産生ポリエステルの高性能化に関する研究を大きな柱としている。これまでセルロースを除く多糖類は、分子量が低い、分岐などがあり構造が複雑であるなどの理由からプラスチック材料化は行われていなかった。しかし、我々の研究により微生物が生合成する多糖類であるカードランを様々な種類のエステルを用いて化学修飾したカードランエステル誘導体は優れた機械的物性および熱的性質を有することがわかった。さらに、微生物産生ポリエステルのフィルム表面をプラズマ照射し、ポリアクリル酸により表面改質することにより、生分解性速度を制御することことに成功した。したがって、2つの両課題で大きな進展が認められている。
今回用いたエステル化は非常に簡単な化学合成法であり、様々な多糖類に応用可能であると考えられる。今後は、プルラン、アルギン酸など多糖類の種類を増やし、物性や化学的性質の異なる多糖類誘導体を合成する。一方、微生物産生ポリエステルは炭素源の種類を変えることにより、硬い物性から軟らかい物性まで様々な化学組成と性質を有する共重合体が生合成できる。今後は、これらの共重合体同士をポリマーブレンドし、より優れた性質の発現を試みる。
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