研究課題/領域番号 |
22245028
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉澤 一成 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (30273486)
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研究分担者 |
塩田 淑仁 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (70335991)
蒲池 高志 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (40403951)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 量子化学 / 生体関連化学 / 酵素化学 / 生物無機化学 / 触媒化学 |
研究概要 |
本研究では、酵素の全原子(~数万原子)を含む高精度の量子化学計算を実行するものである。今後この種の大規模精密計算が生命化学の分野に果たす役割は増えると期待される。このような金属酵素に関する大規模現実計算については、世界的に見てもその成功例は限られている。これまでに行った金属酵素の構造と反応性に関する理論的研究に基づいて、人工変異酵素の設計と反応制御について世界をリードする基盤研究を展開した。酵素化学反応は高度に制御された究極の物質変換であり、あらゆる化学物質を選択的かつ高効率で変換しているという点で、触媒工学等への波及効果も極めて大きいものがあった。生体活動において酵素の果たす役割は極めて重要であり、その延長上には生命工学等の先端科学技術が開けている。さらには、天然を超える人工酵素の設計を視野に入れることも十分に可能である。特筆すべき成果を以下に記述する。今年度は京都大学化学研究所の江崎栗原グループとの共同研究を推進し、フルオロアセテートデハロゲナーゼの構造と反応機構に関する大規模量子化学研究を推進した。九州大学の石原グループとはパラジウム金表面での過酸化水素の直接合成の反応機構に関する研究を実施した。さらに筑波大学の小島グループとのルテニウム触媒による酸化反応の反応機構解析を実施した。酵素や触媒反応における電子伝達の機構改名を主眼として分子内および分子間における電子輸送過程の軌道理論を発展させた。これらの成果はインパクトファクターの高い学術誌に掲載された。さらに、名古屋大学・巽グループと鉄二核錯体の電子状態について解析を行い、フロンティア軌道からその特異な電子特性および反応性について知見を得ることに成功した。さらに、北海道大学・清水グループと酸素修飾したPdナノ粒子によるニトリルの水和反応について解析を行い、その機構について計算化学の立場から妥当性を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
米国ルイビル大学、東京大学、京都大学、筑波大学のグループとの共同研究を実施し、その成果がインパクトファクターの高い学術誌に掲載されている。それらの学術誌には、例えば、Nature Communications、Accounts of Chemical Research、Chemistry European Journal、Chemistry Asian Journal、ACS Catalysis、Journal of Physical Chemistryなどである。以下に特筆すべき成果を挙げる。我々は、分子中の電子輸送がフロンティア軌道の位相と振幅によって大きく変わることを10年前に理論的に予測している。同じ分子であっても、極端に電子の流れやすい方向と、逆に流れにくい方向が存在する。この理論予測を東京大学と大阪大学との共同研究を通じてナフタレン誘導体の単分子伝導測定によって検証した。まず理論予測が先になされ、それが実験を先導するという著しい成果といえる。これらの観点から、研究計画以上に研究が進展したと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
量子化学計算により、酵素を対象とした反応活性種の推定、反応機構の提案、活性部位アミノ酸残基の評価を行う。また、量子化学計算に基づく酵素変異という新しい試みである計算ミューテーション(computational mutation)に挑戦し、活性部位アミノ酸残基の機能解析と反応制御を行う。研究方法として、QM/MM計算、分子動力学計算、伝導シミュレーションを用いる。引き続き、酵素の活性状態とその反応性および機能改変について、QM/MM計算、分子力学計算、電子伝達計算からアプローチする。22年度からの成果に基づき、酸化酵素、ニトロゲナーゼなどの活性構造と反応性の相関についてさらに徹底的に調べる。また、国内外の実験グループとの共同研究を積極的に推進する。これまでに行った東京大学の西林准教授、大阪大学の福住教授、筑波大学の小島教授、京都大学の江崎教授と栗原教授、米国ルイビル大学のPawel Kozlowski教授らのグループと共同研究に基づいて、優れた国際的研究グループとの連携を深め、さらに幅広い理論研究を展開する予定である。さらに、北海道大学や名古屋大学との大学間での連携を深めて共同研究を積極的に推進する。研究組織に大きな変化はない。
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