研究課題/領域番号 |
22246013
|
研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
浦野 千春 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 主任研究員 (30356589)
|
研究分担者 |
山澤 一彰 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 主任研究員 (30306873)
金子 晋久 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 研究室長 (30371032)
福山 康弘 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 研究員 (00357899)
堂前 篤志 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 研究員 (20357552)
大江 武彦 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 研究員 (30443170)
|
キーワード | 統計力学 / 標準 / 計測工学 / 超精密計測 / 基礎物理定数 / ジョセフソン効果 / 量子ホール効果 / SI単位 |
研究概要 |
ボルツマン定数の再定義に向けて水の三重点における抵抗温度計の雑音を精密に測定するためのシステムの開発を行った。実験に必要な構成要素は大きく分けて(1)温度場および温度プローブ、(2)液体ヘリウム用インサート、(3)データ収集システム、(4)JNT用超伝導デバイス、の4つに分類される。(1)に関しては水の3重点を実現するための温度場を作製した。水の3重点測定用に最適化した温度プローブを開発した。前年度作製した抵抗温度計を改良し、4端子抵抗がチャンネル間で異なるという問題点を改善した。(2)液体ヘリウム用インサートに関しては超伝導デバイスを固定し高周波パルスを入力するための部品の改良を行った。前年度に作製した高周波プローバーでは高価な高周波ケーブルが硬くて折れやすいという問題があったが、柔軟なケーブルを用いることにより破損の危険性が小さくなった。さらに、高周波ケーブルが着脱式になったことにより、素子の高周波プローバーへの装着と位置合わせが非常に容易になった。(3)データ収集システムに関しては2チャンネルで2MS/sでデータ収集を行うシステムを開発した。(4)JNT用超伝導デバイスに関しては電圧読み取り端子それぞれに伝達特性をマッチングさせるための抵抗を挿入した素子を開発した。(1)-(3)で述べた要素技術を統合して2つの抵抗温度計を用いたスペクトル強度の比較測定を行うことはできるようになっている。現在、抵抗温度計の雑音スペクトルの強度をジョセフソン任意波形発生器で発生した擬似的白色雑音信号のスペクトルを基準として精密に測定することによりボルツマン定数を決定するための最終的な調整を行なっている。この研究の成果は電気標準の国際会議(CPEM2012、7月、ワシントンDC)で発表することが決まっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東日本大震災により産総研における超伝導プロセスのためのクリーンルームが激しく損傷し、本研究で最も重要なジョセフソン接合素子の開発が長い期間不可能となった。震災後数ヶ月間クリーンルームのある建物が立ち入り禁止とされた。素子作製の要の一つであるステッパーが故障し修理に時間がかかった。修理が終わった後も9月上旬まで節電のため長期間クリーンルームの利用が禁止された。本研究で使用する窒素化合物は物性が窒素の組成に大きく影響されるが、震災の影響で成膜条件が劇的に変化してしまい、ジョセフソン接合作製のための最適な条件を探索することに多くの時間を取られてしまった。以上の理由により研究の進捗が計画よりも3ヶ月程度遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度第一四半期中にボルツマン定数を測定できるシステムを完成させる。具体的にはジョセフソン任意波形発生器によって安定に基準信号(量子化された任意強度の疑似乱白色雑音)を発生できる態勢を確立し、水の三重点に置いた抵抗温度計のスペクトル強度からボルツマン定数を求めるための基本的な態勢を整える。第二四半期中に全ての不具合を修正し、ボルツマン定数の超精密測定が可能な態勢を築く。抵抗温度計としては現時点では100Ωの抵抗器を用いているが、これをより大きな抵抗値に拡張し不確かさ低減を目指す。具体的には数百Ωの抵抗器を作製し、それにあわせたジョセフソン接合素子の開発にも着手する。平成24年度12月末日までにボルツマン定数を精密に測定し、我が国からの正式なデータとして提出することを目指す。第3四半期以降は機械式冷凍機を用いた測定を行うための研究を重点的に行う計画である。
|