研究課題/領域番号 |
22246013
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
浦野 千春 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 研究室付 (30356589)
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研究分担者 |
福山 康弘 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 主任研究員 (00357899)
丹波 純 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 研究室付 (10357494)
堂前 篤志 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 主任研究員 (20357552)
山澤 一彰 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 研究室長 (30306873)
金子 晋久 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 研究室長 (30371032)
丸山 道隆 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 主任研究員 (30415947)
大江 武彦 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 研究員 (30443170)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | SI単位 / 基礎定数 / ボルツマン定数 / ジョセフソン効果 / 量子擬似電圧雑音源 / SI単位再定義 / ボルツマン定数再定義 |
研究概要 |
2011 年に開催された第24 回国際度量衡総会では国際単位系(SI)の7 つの基本単位のうちキログラム、ケルビン、アンペア、モルの定義をそれぞれプランク定数、ボルツマン定数、電荷素量、アボガドロ定数に基いて同時に改定することが決議された。産総研ではボルツマン定数再定義およびITS-90 による温度との差異の再評価を目指してジョセフソン任意波形発生器を用いたJNT の研究に取り組んでいる。 ジョセフソン任意波形発生器を用いて擬似電圧雑音信号を基準として、抵抗温度計の発する熱雑音のパワースペクトルを精密に測定するためのシステムの開発を行なった。同期された2チャンネルのアナログ/デジタル変換器をバッテリーで駆動してデータを収集するシステムの論理的なセットアップは完了した。 量子疑似電圧雑音源を除いたシステムの動作検証を行うために、上で述べたデータ収集システムで水の三重点(273.16K)に置かれた100Ωの抵抗器の熱雑音のスペクトル強度を基準としてガリウムの融点(約30℃)に置かれた抵抗器のスペクトルを測定し、ガリウムの融点を評価したところ、CODATAで定義されている値と統計的不確かさの範囲内で一致した。このことから量子疑似電圧雑音源を除くシステムは期待通り動作していることを確認した。 次のステップとして、量子疑似電圧雑音源の発生するスペクトルを基準強度として水の三重点に置かれた抵抗器の熱雑音のスペクトル強度を測定する精密測定のフェイズに入った。測定の統計的不確かさの典型的値は半日の測定で約20 ppm程度であるが、現時点では測定から求めたボルツマン定数の値と2010年のCODATAで定義されている値のズレ(約80 ppm程度)の方が統計的不確かさよりも大きい状態である。今後このズレの原因を究明し、装置の改善を行う必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々の装置が当初計画した構造になったのは2012年の12月であり、これは当初の計画よりも1年以上遅れている。 2011年度に震災のため超伝導デバイス作製に不可欠なクリーンルームが破壊され、半年以上実験が遅延した影響をいまでも挽回できていないことが最大の理由である。もう一つの理由はジョセフソン任意波形発生器による量子擬似電圧雑音源の動作に不可欠な条件を完璧に把握するのに予想以上に時間がかかってしまったことである。パルスパターン発生器からの出力信号をそのまま量子擬似電圧雑音源に入力すると、パルスパターンのベースバンド成分が出力電圧読み取り線に直接結合して出力信号は見かけ上周波数の増加とともに急激に増大してしまい、本来周波数に依存しない熱雑音のスペクトルと大きく異なった測定結果が得られてしまう。これを防ぐためにはパルスパターン発生器の出力信号をDCブロックに通過させることによってベースバンド信号を取り除く必要があったのであるが、このテクニックは10年以上先行する米国のグループの論文に今まで一度も記述されたことがなかったため気づくのに非常に時間を要することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は昨年度までに開発した雑音温度測定システムの改良を行うことにより、ボルツマン定数再定義に貢献で きる実験結果を提出することに全力を尽くす。現状では、水の三重点に置かれた抵抗器の熱雑音から求めたボル ツマン定数の不確かさは100ppm程度である。この不確かさは統計的不確かさではなくオフセット値によって支配 されている。このオフセット値の原因としては1不要電磁雑音(EMI)の影響、2抵抗温度プローブと擬似電圧 雑音源の電圧読み取り線の周波数特性のミスマッチ、3プリアンプの非線形性、4信号源と測定装置の間の同期 精度の影響、5ジョセフソン任意波形発生器の実装方法の再検討、などが考えられる。それぞれの要因に対して適切な対策を施し、まずは本研究の当初計画で提案した25 ppmの不確かさを達成し、次にボルツマン定数再定義に貢献する上で重要な7 ppmの不確かさを目指す。 本年度は産総研内のヘリウム液化システムが装置の更新のため液体ヘリウムの供給が10月から半年間停止する。さらに昨年度から続く液体ヘリウム価格の高騰により、本年度後半は液体ヘリウムを利用した実験が困難になる可能性が高い。このため本年度後半は機械式冷凍機を用いた雑音スペクトルの精密測定ができるようにしたいと考えている。我々は既に機械式冷凍機の高周波ケーブルの配線を完了し、長時間4K程度の温度を保持できることを確認している。機械式冷凍機に素子を固定し、低雑音で信号を読み出すテクニックを完成することを目指したい。 液体ヘリウムが無くても出来る別の実験として水の三重点に置かれた抵抗器に対して別の温度定点に置かれた抵抗器のスペクトルを求めるための実験を系統的に行うことも計画している。
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