RF回路と低損失で接続し,かつ高い放射効率を有するミリ波帯オンチップアンテナとして,シリコン基板上に厚さ200umの誘電体層を設けその上に円偏波パッチ素子を有し,基板に開けた貫通孔より同軸構造で給電するアンテナを60GHz帯で設計した。厚い誘電体層によって導体損失が低減され,78%と高い放射効率の計算値が得られた。そのうち同軸構造での損失は高々0.2dB以下となり提案構造において接続損失が低い。 まず,1素子アンテナを試作した。チップの反りによる電波漏洩を防ぐためのチョーク溝を掘った評価治具にアンテナを固定し,反射が-10dB以下となる比帯域幅11.2%,軸比が3dB以下となる比帯域幅2.2%の実測値を得た。治具の影響で放射パターンの正面方向に複数のリップルが観測されたが,正面から±15度方向での利得幅の実測値は4.4~6.2 dBicとなり設計値の利得幅4.9~5.8dBicとおおよそ一致した。 アンテナの放射効率を実測するために電波撹拌金属箱を用いたミリ波帯向けの測定システムを構築した。各内壁に攪拌金属板を設置した金属箱内部において受信レベルがレイリーフェージングとなるようなアンテナの向きに調整することで,測定の不確かさを±3%に改善した。この条件で評価治具を含めたアンテナの放射効率75%という実測値を得た。 次に,提案アンテナを2x2素子にアレー化し60GHz帯で動作する4相発振回路から同軸構造で直接給電するテストチップを設計した。アンテナは円偏波パッチ素子を90度ずつ回転したシーケンシャルアレーとした。配線を施したフレキシブル基板をアンテナチップ裏面に熱圧着し,そこに発振回路をフリップチップ実装する給電構造を提案した。テストチップを試作したが,発振回路チップ側のパッドの内部構造が破壊していたため、動作しなかった。
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