研究概要 |
平成22年12月、脳内情報の記憶・伝達が擬似ランダム系列の代表であるM系列に基づくという非常に重要な知見を得た。そこで,平成23年度には,ラット脳海馬の神経細胞を培養し,電気刺激を与えたときの反応(神経スパイク系列およびその平均応答(PSTH))を解析した.その結果,PSTHではM3(長さ7),M4(長さ15),およびM5(長さ31)の反転M系列が観測された.一方,神経スパイク系列そのものの観察・解析では,まず,スパイク系列よりM系列およびその反転系列の検出を自動で行うソフトの開発を行った.そこで,観測スパイク系列をシャッフルした系列との有意差検定を行った.その結果,M3(長さ7)の存在が有意であることを確認できた.さらに,反転M系列と通常の非反転M系列の検出比を調べると,反転M系列が非反転M系列の1.29倍であった.さらにM系列理論では,LFSR(線形フィードバックループ回路)が仮定されている.その際素子としてはExclusive OR回路が用いられる.しかしながら,実際の神経回路網では閾値素子でモデル化する方が妥当である.そこで,これらの理由を探求すべく,閾値素子による回路網のシミュレーションを行った.計算時間と精度を考慮し,素子数は12とした.その結果,反転M系列と通常の非反転M系列の検出比につき,実験で得た値に非常に近い値である1.28を得た.この結果は,このモデル化が妥当であり,培養神経細胞のような未熟な回路網では単純にランダムな非構造的神経回路網が構成されているであろうことが推察された.さらに,M4につき,それらしい系列は検出されたが,データ数の関係でさらなる検証が必要であることが分かった.
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