研究課題/領域番号 |
22246054
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田村 進一 大阪大学, その他部局等, 名誉教授 (30029540)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スパイク波 / 符号分布図 / 脳内情報通信 / 培養神経細胞 |
研究概要 |
我々は、脳内通信機構の解明を神経回路ベースで進めており、当初はループ回路が生成するM系列などの疑似ランダム系列が、記憶 (ループ回路)と、通信のための符号(疑似ランダム系列)の役割を同時に担うとの仮説を立てた。その仮説に基づき、ratの培養胎児脳から生成した培養神経細胞が発するスパイク列の時系列解析をしたところ、昨年度までにいくつかの局面で予測通り、M系列を中心とする疑似ランダム系列が偶発的より有意に発生することが発見・証明され、さらに特定符号が神経回路網内を動き回る様を動画化した符号分布図を完成させた。本年度上半期はこの符号分布図を統計学的により詳細に解析し、符号のビット間隔(スパイクインターバル)や異なる細胞間での符号の時系列同期を解析した。その結果、符号は複数の神経細胞(神経細胞グループ)により生成され、それが別の神経細胞グループに伝播されていることが確認された。しかしながら,この現象が何を意味するか以前不明であった。本年下半期ブレークスルーがあり、それが神経回路網内で発生するスパイク波の結果であることが解明できた。さらに,神経発火で構成される時空間パターンが神経回路網中をスパイク波として伝搬し、受信神経群で復号可能であることがシミュレーションにより解かった。すなわち、脳内情報処理の基本原理が解明できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はtime-shift図法を開発し、頭表脳波・皮質脳波、MEGからの脳波伝播解析を世界に先駆けて行った。そこでは様々な情報が同時並行的に脳内各部に順次伝達される状態が可視化された。そこで我々は脳構成論の立場から、記憶の基本はループ回路であり、このような経路の探索・形成がHebb則に従う神経回路で可能であり、記憶銘記、連想、抽象化、記憶の再構成など脳情報処理の基本機能が単純な経路形成のみで統一的に説明され、生理的・神経回路的に実現可能であることを示す研究を進めている。これらのシミュレーション的実証については、平成21-23年度挑戦的萌芽研究「脳の自己組織化:記憶・連想・抽象化のループ回路的実現」において、ループ回路へのバックプロパゲーション学習の適用などを行った結果、time-shift図を説明できるような通信機能の自己組織化が物理的に実現可能であることが分かった。本研究ではこれらの仮説実証のための生理学的実験を行い、理論と実験の両方からの仮説検証を目指している。これまでにラット皮質(視覚第一野)および培養神経細胞につき、マルチチャネル電極を用いて神経スパイク系列を観測した。その結果、【研究実績の概要】で記した通り、スパイク列の中にM系列を含む擬似ランダム系列符号を偶発的より有意に検出し、その符号が神経回路網を伝播することを確認した。さらに本年度下半期にブレークスル―があり、それらの符号が神経回路網内で発生するスパイク波に由来することが解明できた。
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今後の研究の推進方策 |
【研究実績の概要】で記した通り、我々は、脳内通信機構の解明を神経回路ベースで進めており、当初はループ回路が生成するM系列などの疑似ランダム系列が、記憶(ループ路)と、通信のための符号(疑似ランダム系列)の役割を同時に担うとの仮説をたてた。上述の仮説に基づき、ratの培養胎児脳から生成した培養神経細胞が発するスパイク列の時系列解析をしたところ、複数の神経細胞によりM系列を中心とする疑似ランダム系列が生成され、それが他の神経細胞群へ伝播することが確認できた。さらにその現象が神経回路網内で発生するスパイク波に由来することが解明できた。本年度は、培養神経回路網などから発生するスパイク列の生理学的データをこのスパイク波モデルに基づき解析する。これにより、脳内情報通信機構を生理学的に解明する手掛かりが得られるであろうと期待している。
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