研究課題/領域番号 |
22246056
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
大久保 雅隆 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測フロンティア研究部門, 研究部門長 (60356623)
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研究分担者 |
吉川 信行 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70202398)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 分析機器開発 / 超伝導センサ / 超伝導信号処理 / 質量分析 / 生体分子 |
研究概要 |
【背景】飛行時間型質量分析装置(TOF MS)は、ライフサイエンス分野などで使われる重要な分析装置の1つである。原子や分子をイオン化した後に数kVの電圧で加速して、一定距離を飛行させ、イオン検出器で検出し、飛行時間から原子や分子の同定、構造解析などを行う。イオン検出器にはナノ秒の高速応答が必要である。しかし、高い質量分解能の測定が分子量数1000に限られることや、イオンの電荷数を識別できないため、イオンの質量を直接決定できないといった限界があった。 【平成24年度の成果】超伝導ストリップイオン検出器(Superconudcting Strip Ion Detector: SSID)では、イオンが衝突したときに生じる音であるフォノンにより超伝導状態が壊れることを利用して、質量に関係なくイオンを検出できる。厚みが数10 nm、線幅が数100 nmの超伝導体(Nb)のストリップ線を、2から5 mmの領域に直並列に配置した。ナノ構造を有する超伝導体の優れたイオン検出特性と、検出器として重要なマクロサイズの有感面積を両立させた。 また、検出器に加える電流バイアス値を変えることにより、イオンの電荷数識別が可能であることを見出した。通常の質量分析では、例えば、m/zが同じになる単量体の1価イオンと2量体の2価イオンを区別できない。さらに、ナノ秒高速パルスを処理するために、単一磁束量子(SFQ)を情報媒体とした超高速の超伝導デジタル回路であるSFQ集積回路を開発した。 この成果は、第60回アメリカ質量分析学会にて発表した。採択されるのが難しい口頭発表として採択された。プレス発表を行った:http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2012/pr20120518/pr20120518.html。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
質量分析装置のイオンビームサイズと同程度の有感面積が実現されれば、超伝導を活用した優れたイオン検出性能を実用化することができる。平成24年度は、目標となるcmサイズの有感面積達成に向けて、1素子で最大5 mmの有感面積を達成した。また、従来、3 Kの超伝導検出器と室温の信号処理系を同軸ケーブルで繋いでおり、ケーブルを通した熱流入のために、検出器の多素子化が困難であったが、3 Kでデジタル処理を行うSFQ回路の実現に目処を付けた。
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今後の研究の推進方策 |
イオン化のためのパルスレーザーとSFQパルスの時間差がイオンの飛行時間となる。この飛行時間を測定するために、時間ーデジタル変換(TDC)を行う超伝導回路を開発し、質量分析装置に搭載する予定である。SFQ-TDCの設計は横浜国立大学、製作は産業技術総合研究所で行う。これにより、3 Kで飛行時間に対応するデジタルデータに変換して、デジタル値を少ない配線で室温に取り出せる計測系を開発する予定である。高い質量分解能が得られるリフレクトロンタイプのTOF MSに、SSIDとSFQ-TDCを搭載し、幅広い生体試料を測定可能とする。
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