研究概要 |
結晶性固体材料の破壊物性研究を革新する鍵は,亀裂とその先端近傍のメゾスケール空間に広がった応力集中影響領域での結晶格子欠陥(特に転位)集団構造を高精度に可視化し,それをモデル化することにある.当研究では高い電子線透過能と分解能を兼備した分光結像-超高圧透過電子顕微鏡法とトモグラフィーを融合し,従来域を超えた厚さ5ミクロン以上のnear-bulk試片中の三次元TEM結晶構造解析に挑んだ.本年度は,昨年度に引き続きJEOL-1300NEFおよび高傾斜回転ホルダーを用いた超高圧電子線トモグラフィーを行った.試料膜厚が増加すると非弾性散乱のエネルギー損失の幅は広がり,そのピーク強度は弾性散乱の強度より大きくなる.本年度はこの関係を定量的に明らかにするために,試料は膜厚の測定の測定が容易になるよう薄膜を亀裂が貫通したシリコン単結晶を用いた.亀裂はマイクロビッカース硬度計を用いて導入し,亀裂先端に転位を発生させるため,高温で数時間保持した後冷却した.電子線トモグラフィーでは,試料の回転に伴い電子線が透過する見かけの膜厚が1/cosθの関数で増加する.そこで,まず膜厚の変化に伴うエネルギースペクトルを取得した.その結果を基に,観察している傾斜角度において,最も電子線透過強度が最大となるエネルギーが中心となるようスリットを挿入し,高い転位のコントラストを得た.スリットの挿入幅および場所を試料ホルダー回転中に逐次最適化することによって,これまで困難であった膜厚5ミクロン以上中に存在する転位の立体構造が明らかとなった.
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