食糧に競合しない木質系バイオマスから化学製品中間体を効果的に製造することを目的として、熱化学的変換により木質バイオマスの各成分を低分子化するための新発想の手法の開発に取り組んだ。 まず初年度としては、木質バイオマス廃棄物をアセトン水溶液を用いて、170~250℃のもと処理することで、バイオマス中のリグニンをできるだけそのままの形で抽出することを試みた。この方法のポイントは、高温高圧アセトン水のpKa値を、温度と添加した有機酸によって調節し、リグニンの溶解度を変化させる点にある。この発想に基づき、既設のバッチ反応装置を用いて、生成物を回収したのち、購入した全有機体炭素計と液体クロマトグラフによって生成物の同定を行った。その結果、酢酸を5wt%含有したアセトン水溶液の220℃処理によって、スギからヘミセルロース由来の糖類とリグニンを回収することができた。ここで抽出したオルガノソルブリグニンは元の構造と反応性を保持しており、低分子化に適していることを投稿・掲載された論文で発表している。 一方、dry系バイオマスには水熱処理はエネルギーの観点から欠点となりうるため熱分解が望ましい。よって、多段の熱分解によってバイオマス中の各成分を選択的に分解することを試みた。これについても購入したマイクロガスクロマトグラフで生成ガスを定量し、収率を算出した。種々の条件で実施した結果、300℃までの低速熱分解により、バイオマス中のヘミセルロースがほぼ完全に分解されることがわかった。また、初期熱分解の揮発生成物に対し、2次的分解を施した結果、2次分解温度が800℃でヘミセルロース由来のフランが高収率で生成した。(化工年会での発表内容) 以上のように、本年度はwet系とdry系のバイオマス両方から構成成分に応じた分解生成物の回収に関する研究を推進した。来年度以降は、酸化分解などを組み合わせる予定である。
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