研究課題/領域番号 |
22246100
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
前 一廣 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70192325)
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研究分担者 |
長谷川 功 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20346092)
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キーワード | バイオマス / バイオリファイナリー / 高温高圧処理 / 酸糖化 |
研究概要 |
本年度は前年度の成果に基づいて、さらに効率的にバイオマス中のセルロース、リグニンの成分分離を行う方法を確立するとともに、成分分離したリグニン、セルロースから有用化学物質を製造する新規変換法の開発を進め、トータルとしてバイオマスを化学製品に有効利用するためのリファイナリースキームの基盤を構築することを目指し、以下の成果を得た。 前年度実施のアセトン水を用いた前処理法の条件をさらに詳細に検討し、木質バイオマスの種類によらず、アセトン/水=1:1の溶液で200~230℃にて高圧下処理することで、ほぼ完全にリグニン溶液と固体セルロースに分離できることを明らかにした。 上記前処理で得られた各リグニンを用いてH2O2存在下での高圧熱水処理を行い、生成する有機酸の種類と量の変化を追跡し、H2O2を1.5%添加、200℃、2分程度の熱水でコハク酸、酢酸、ぎ酸の3種類の有機酸を合計55%得ることに成功した。この結果、また、Fe添加によるフェントン酸化によって、シュウ酸を数十%得ることも見い出し、各有機酸の選択回収にあわせたリグニンの2段酸化法を確立した。 一方、バイオマス由来の糖類、有機酸からのモノマー原料製造法の開発に関しては、前処理分離物の主成分であると考えられるGluconolactoneは平衡関係から完全に有用なGluconic acidに変換できない。そこで、適切な酸触媒のもと250℃程度の高温高圧水を用いてGluconolactoneからモノマー原料ソースとなり得る2-keto-Gluconic Acidに変換する方法を検討し、100%転換することに成功した。 以上、木質バイオマスを付加価値の高い化学原料へ選択的に熱化学変換するルートを開拓することに成功した。次年度はこれらの結果をもとにさらに詳細な条件探索を行い、分離工程も踏まえて投入エネルギーミニマムとなる最適条件を探索する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画した主要部分は順調に達成しており、提案時の基本的なアイデアの妥当性も確認できている。具体的には、木質バイオマスで最も困難とされるセルロース、リグニンを完全単離する手段として、アセトン/水の混合による酸性度と溶解力の制御に温度因子を組み合わせることでセルロース固体を100%の収率で単離できたことは本研究の最大の目的を達成したと評価できる。 一方、単離したリグニンはこれまで廃棄の対象であったが、リグニン特有の芳香族構造に着目し、芳香環を酸化開裂することで有機酸を選択的に製造する手法を開発し、3種類の有機酸を50%以上得ることに成功したことは画期的な成果と考えられる。これによって、リグニンのもつ価値が大きく向上し、セルロースから化学原料を製造する上で、コスト面で大いに有利に働くことが期待できる。このように、リグニンからの変換に関しては、100%目的を達成したと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで順調に研究が進捗しており、最終年度はこれまで2年間の成果に基づいて、効率的にバイオマス中のセルロース、リグニンの成分分離を行う方法、成分分離したリグニン、セルロースから有用化学物質を選択的に製造する新規変換法の最適条件を明確にし、バイオマスから各種化学製品を製造するバイオマスリファイナリーフローを提示する。具体的には、リグノセルロース系バイオマスの直接酸糖化法の開を提案し、セルロース成分からオリゴ糖を最大限得るためのプロセスフローとその最適操作条件を明示する。次に、各単離成分に関しては、まずリグニンから選択的にコハク酸などの有用中間化学製品を最大収率にする条件を明確にする。一方、リグニン溶液の高圧高温水での低分子化を実施し、得られた低分子リグニンに硬化剤を添加してリグニン樹脂を製造する方法についても検討する。一方、セルロース成分からは乳酸発酵で得られた乳酸の酸化によるC3モノマー原料の合成を、気液マイクロリアクターを試作し、純酸素酸化を試み、反応時間を数分以内で選択的にC3モノマーを製造する方法について検討を加える。これによって、バイオマスから高機能部材を製造する新しいスキームを構築する。
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