研究課題/領域番号 |
22247002
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
柴田 武彦 独立行政法人理化学研究所, 遺伝制御科学特別研究ユニット, ユニットリーダー (70087550)
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研究分担者 |
美川 務 独立行政法人理化学研究所, 遺伝制御科学特別研究ユニット, 専任研究員 (20321820)
草野 好司 京都工芸繊維大学, 遺伝資源キュレーター教育研究センター, 特任教授 (70336098)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 相同DNA組換え / DNA二本鎖切断 / 減数分裂期組換え / 体細胞組換え / 植物 |
研究概要 |
生体は環境に応じてゲノムDNA上の組換えホットスポット配列に二本鎖切断を入れる酵素とヘテロ二重鎖組換え中間体形成を行うRecA/Rad51型組換え酵素を以て相同組換え開始を制御する。我々は組換え開始酵素による二本鎖切断とRecA型組換え酵素によるヘテロ二重鎖組換え中間体形成の生化学機構と、その生体での相同組換え制御の解明、得られた知識を基に組換え開始自在制御実現と活用を目指す。 減数分裂期相同組換え開始に働くイネのOsSPO11D、モデル植物であるシロイヌナズナのAtSPO11-1について、活性を持つ状態で、これらを大量発現する大腸菌細胞からの単離法の検討を行い、非特異的DNase活性を持たない標品を得ることができるようになった。一方、ショウジョウバエのバイオアッセイ系を用いた研究で、植物のSPO11は、植物の補助蛋白質無しでもDNA二本鎖切断活性を示すことを昨年度までの研究で明らかにした。そこで、DNA二本鎖切断欠損変異spo11がコードする蛋白質spo11を調製し、野生型とその変異型についてSPO11蛋白質が単独でもDNA二本鎖切断活性を示すことができる条件を広い範囲で検討している。 一方、酵母ミトコンドリアでは、酸化損傷修復に働くDNA-N-glycosylase-DNA lyaseであるNtg1が組換えホットスポットでDNA二本鎖切断を入れることで体細胞期相同的組換えを誘導することを明らかにしている。植物体ではストレスに応じて相同的組換えが誘導されることが知られている。また一般にストレスは酸化ストレスを誘導する。そこで、モデル植物であるシロイヌナズナのNtg1のホモログNth1, Nth2やそれらのパラログについて検討を進めることとして、それらの大量発現系を構築し、精製法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Spo11が組換え開始のDNA二本鎖切断を入れる活性をもつ蛋白質であることを示唆する遺伝学的研究結果が発表されてから16年も経つ。しかし未だにSPO11自身がエンドヌクレア-ゼ型DNase活性をもつ事を直接示す生化学的証拠は得られていない。これには、明らかな2つの壁があった。第1はどの生物由来であれ、SPO11を水溶性の状態で活性を持つ形で精製することが困難であった。第2は、酵母での遺伝学的研究からその発現には多数の補助因子が必要であることが示唆されていた。前者については、我々が2010年にシロイヌナズナとイネにそれぞれ2-3種ある減数分裂期相同的組換え開始に必要なSPO11オルソログのDNA結合活性をもつ状態での単離に成功し発表した。後者については、昨年度、我々はショウジョウバエを用いたバイオアッセイ系を開発し、シロイヌナズナとイネの複数のSPO11オルソログが、植物由来の補助因子が存在しない状態でもDNA二本鎖切断活性を発揮することを示したことで、少なくとも種特異的な結合蛋白質の必要性を排除することができた。SPO11によるDNA二本鎖切断導入は全ての有性生殖をおこなう生物に共通な相同的組換え開始シグナルであり、その分子機構の解明はどうしても越えなければならない壁であるが、難航している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、相同的組換え開始のDNA二本鎖切断導入機構に集中してきた。この努力は続けるが、それに続くヘテロ二重鎖形成反応機構の理解にも力を注ぐことにする。 SPO11については、減数分裂期相同組換え開始に働く可能性をもつシロイヌナズナのAtSPO11-1, AtSPO11-2とイネのSPO11Dについて、新たなタグの導入など、二本鎖切断活性を有する状態で単離する試みを更に続ける。また、SPO11はII型DNAトポイソメラーゼと共通の一次構造の特徴をもち、その反応中間体と共通に、DNA二本鎖切断末端に共有結合することが知られている。そこで、蛋白質・DNA共有結合形成活性をトラップする手法を検討する。 酵母Ntg1のシロイヌナズナでのホモログ群、それぞれがもつ酸化損傷DNAへの生化学活性を検証し、植物細胞核で酵母Ntg1と同じ働きをする蛋白質の候補を絞り込む。また、植物体がROSによるストレスを受けた時に体細胞組換えが誘導されるか、また、実際に体細胞組換え誘導が検出された場合そのゲノムでの部位を解析し、どのような変化が起こったかを明らかにする。 我々はこれまでもRecA型組換え酵素の代表RecAをモデルに、組換えメディエーターや活性抑制蛋白質などのRecA組換え酵素活性を制御する蛋白質の研究を進めてきた。活性制御蛋白質との相互作用と、RecA組換え酵素内のDNA結合部位といわれている構造変化が大きい2つのループの組換え酵素活性での機能の解明を目指す解析の準備として、これらの部位の一アミノ酸置換変異群を準備した。RecAについては、活性制御蛋白質との相互作用、組換え酵素内の構造変化が大きい2つのループとDNAの相互作用、ATPの結合・分解による部分活性の変化などRecAを制御する諸因子の制御での機能解明を進め、組換え酵素活性の人為的制御実現への手掛かりを得る。
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