研究課題/領域番号 |
22247031
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
馬渕 一誠 学習院大学, 理学部, 教授 (40012520)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 細胞質分裂 / タンパク質 / 収縮環 / アクチン / ミオシン / 微細構造 |
研究概要 |
動物細胞や酵母は分裂面の細胞膜直下に形成される収縮環の収縮により分裂する。収縮環は主としてアクチンフィラメント (F-アクチン) とII型ミオシン(以下ミオシン)から成り、これらの相互作用によって収縮する。分裂シグナルを受けて収縮環がどのように形成され、収縮・消滅するかを分子レベルで解明することが本研究の目的である。 まずアクチン脱重合タンパク質Adf1の変異株adf1-1中でアクチンの動きを観察するためLifeact-mRuby融合タンパク質を発現させてライブ観察を行った。その結果、Adf1は間期の細胞端に存在するアクチンパッチの再編成、分裂位置での収縮環への再編成、収縮環の安定性という様々な局面で重要な働きをしていることがわかった。 単離収縮環の収縮能の研究については初年度より分裂酵母の収縮環-細胞膜複合体を単離し、その収縮の条件を調べてきた。ミオシンATPase活性の必要性、至適pH、至適Caイオン濃度などを明らかにできた。収縮はアクチンの脱重合を伴うが、収縮には必須でないことがわかった。これらの結果を国際誌に投稿して受理された。 分裂酵母の分裂位置に集合するキネシン様タンパク質Klp8について、研究がまとまりこれから論文を投稿する。 卵細胞の細胞質中でのアクチンの動きについて、カエル卵の細胞質を単離し、その中でアクチンの流れがおこることを見いだした。この動きに必要な膜成分を同定できた。アクチンの流れに伴う細胞質の動きについてもendocytosis様の動きが観察された。 また分裂酵母のアクチンのダイナミクスについて、分裂酵母のアクチンを細胞中で安定化すると、束化がおこり、細胞中で運動することを見いだした。この動きにはV型ミオシンが関与していた。通常の細胞ではV型ミオシンがF-アクチンケーブルの形成と動きを支配していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分裂酵母の収縮環-細胞膜複合体を単離し、その収縮の条件を調べてきた。その結果収縮環はATPの添加により細胞内の速さの30倍もの速さで収縮した。また収縮にはミオシンATPase活性が必要であり、アクチン架橋タンパク質を加えると収縮は阻害された。収縮に伴ってアクチンは脱重合するが、脱重合を止めても収縮は起こることがわかった。これらの結果を論文にまとめ、Nature Cell Biologyにアクセプトされた。すなわちこの研究は世界的に最高レベルの評価を受けたことになる。また収縮環形成におけるAdf1の働きについて、分裂酵母のアクチンケーブルの運動について、分裂酵母のキネシン用タンパク質Klp8の局在と働きについて、カエル細胞質中のアクチンの流れについて、などの研究は順調に進行している。それらにたいし、微細構造の研究が遅れているので今年度力を入れる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
1) 収縮環形成におけるAdf1の働きについて、Adf1は分裂位置付近へのアクチンの集積には関与しないことがわかったが、アクチンはどのような機構で分裂位置に集まるのかを明らかにしたい。特にV型ミオシン(2種類)とII型ミオシンの役割を調べる。 2) 収縮環-細胞膜複合体の微細構造上でのミオシンの存在状態を明らかにするため、免疫電顕を行う。臨界点乾燥試料あるいはエッチングレプリカ試料を作成する。また収縮環-細胞膜複合体から収縮環を完全単離したい。 3) 分裂変異株nda3とcps1が分裂停止している状態での収縮環F-アクチンの方向性を決定する。細胞壁を一部取り除き、界面活性剤で細胞膜を透過性にし、ミオシンS1を浸透させてF-アクチンをやじり構造に変換して、包埋、薄切、電顕観察してその方向性を決定する。さらにこれらの変異細胞が分裂停止している状態で収縮環-細胞膜複合体を単離し、ATPを加えて収縮環が収縮するかどうかを調べる。 4) カエル卵細胞質中でのアクチンの流れを起こす要因を明らかにする。特にformin/Diaphanous, ADF,ミオシンに注目する。細胞質の変形を起こす条件を特定する。さらに分裂周期の異なる細胞質でのアクチンの動きを観察する。 5) 分裂酵母のアクチンケーブルの運動に関わる分子が細胞内のどの構造に結合しているかを明らかにし、運動の機構とその役割を解明したい。
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