研究課題/領域番号 |
22247034
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上村 匡 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (80213396)
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キーワード | 神経回路 / リモデリング / 神経変性 / 次世代シーケンサー / ショウジョウバエ |
研究概要 |
神経細胞の樹状突起はシナプス入力または感覚入力を受容するアンテナとして働き、神経細胞ごとに特徴的な樹状突起パターンを発達させる。このような樹状突起パターンは、初期発生においていったん形成された後、様々な環境条件に応じてその形態を変化(リモデリング)させることが知られているが、具体的な分子メカニズムには未だ不明な点が多い。 ショウジョウバエ末梢神経系のdendritic arborization (da) neuronの一部では、蛹期において幼虫型の樹状突起が除去されて新たに成虫型の樹状突起を再伸長する。すなわち大規模な樹状突起のリモデリングが起こるため、樹状突起パターンのリモデリングを調節する機構を研究する有用なモデル系となる。この系を用いて、約1,500系統の変異体系統を対象にした遺伝学的なスクリーニングを行い、樹状突起のリモデリングに異常を示す変異体を多数分離した。その中の一つの変異体に注目してより詳細に解析した結果、正常な樹状突起の分岐パターンを保ったまま全体が縮小したミニチュア型の樹状突起へとリモデリングしてしまうことを明らかにした。さらに、野生型の個体を飢餓条件下において体のサイズを小さくしたところ、樹状突起パターンも体の大きさに合わせて縮小すること、つまり樹状突起パターンのスケーリングが起こることが明らかとなった。 次に、この変異体の原因遺伝子を同定するために、次世代シーケンサを用いて変異体の全ゲノム配列を決定し解析したところ、この変異体では、植物からヒトまで保存されたCHORD/morgana遺伝子に1塩基欠失によるフレームシフトが生じていることが分かった。この遺伝子の野生型cDNAの発現により表現型がレスキューされたため、CHORD 遺伝子が樹状突起のミニチュア表現型の原因遺伝子であると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はショウジョウバエ成虫の感覚神経を用いた独自の観察系を利用して、樹状突起の分岐数を維持したままスケーリングさせる神経細胞を発見し、さらにこのスケーリングに関わるCHORD遺伝子を発見した。この遺伝子の解析を通して、神経細胞はどのような細胞外環境からのシグナルを介してボディーサイズを感知するのか、またそれに応じて樹状突起をスケーリングさせる仕組みを明らかできる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で解明を目指すスケーリングの機構は、神経系が精巧な情報処理を実現する上で、今まで顧みられなかった素子の重要な特性を示しているのではないか。形を保持したスケーリングは、ラット、ネコ、そしてマカクザルの種間でThalamocortical projection neuron (TPN) を比較した際にも報告されている (Ohara and Havton 1994)。哺乳類のそれぞれの種の神経細胞においてもこのスケーリングが保存されていれば、神経系が正常に発生し機能する上で欠かせない普遍的な仕組みだと期待される。
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