研究課題/領域番号 |
22247037
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平井 啓久 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (10128308)
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研究分担者 |
五條堀 淳 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 助教 (00506800)
宮部 貴子 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (10437288)
田辺 秀之 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 准教授 (50261178)
郷 康広 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (50377123)
古賀 章彦 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (80192574)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | RCRO |
研究概要 |
(1)ヒトには存在せず、チンパンジー(PTR)特異的に存在するRCROの遺伝子多様性および遺伝子発現に及ぼす影響を調べるために、PTR親子トリオ3個体の全ゲノム解析、親子トリオを含むその他9個体のエキソーム解析を行った。現在、PTR7番染色体(7q31.1領域)に特異的に挿入されたRCROが、その周辺領域の遺伝子多様性および発現多様性に及ぼした効果について解析中である。 (2)PTRの7q31.1領域の組み換えの頻度が低いという予測から、当該領域では連鎖不平衡の減衰が緩やかである事が期待される。ゲノム中の非コーディング領域から約20カ所の20kbの領域を抽出し、一塩基多型を解析した。PCRダイレクトシーケンシング法により、12個体について塩基配列決定をおこない、一塩基多型の暫定的な結果を得た。結果は、当初の予測とは異なる事が示唆された。 (3)PTRの染色体末端にあるRCROの減数分裂での影響を推測するために、Traskのグループが2005年に提示したデータと、チンパンジー末端RCROの存在部位と比較したところ、PTRではその周辺に組換えが起こらないことが示唆された(論文執筆中)。 (4)ヨザルには特異な形状の大規模へテロクロマチン(HTC)がある。単独でアクロセントリック(A)染色体の短碗を構成しており、RCROの一形態といえる構造物である。形成過程を推測するために、このHTCの実態の解明を行った。形成過程は2つの段階から成ると推測した。第1は、セントロメア領域の染色体間の移動である。第2は、染色体端部での増幅であり、テロメア領域でHTCが増幅する機構によって進行する。A染色体の短碗は、セントロメア領域およびテロメア領域の両方が存在するとみなすことができる。この仮定よってヨザルのRCROの分布が容易に説明できる(論文投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲノム不毛地帯(RCRO)は転移性をもついくつかの反復配列が共同で構成する構造であること、またそのような構造が周辺のゲノムに何らかの影響をあたえるとの予測から本研究課題をスタートさせた。2年前からRCROの主要成分であるStSat(サブターミナルサテライト)のクローンを得て、配列をはじめとする解析を進めている。StSatは大型類人猿とヒトが分岐する直前に出現し、ヒト系統で消失したとする見解を示した(Koga et al. 2011)。StSatの存在様式から、チンパンジーの減数分裂時に染色体ブーケが後期パキテーン期まで存在する行動に連鎖していることが示唆され、非相同染色体間でRCROの組換えが起こることも推測された(執筆中)。また、古賀グループは、テナガザル類において、染色体末端のRCROがセントロメア由来であることやレトロトランスポゾン(SVA)がセントロメアで大規模に増幅していることなど多くの新たな知見を得ている(Koga et al. 2012; Hara et al. 2012; Baicharoen et al. 2012)。さらに、ヨザルのアクロセントリック染色体の短碗RCROは3種類のアルファサテライトDNAが縦列融合することで構成されていることも明らかになった(Prakhongcheep et al. 2013; 執筆中)。また、チンパンジーとテナガザル(シアマン、クロテナガザル)の末端RCROの形成機構がかなり異なるが、その意義と機能はチンパンジーのそれと類似するものであることが推測されることから同じ構造をもつボノボやゴリラを含めたより包括的な解析が必要となりつつある。このように、当初チンパンジーだけからスタートした本研究課題も、解析手段や対象種が拡大されより総合的な研究に発展しつつある。そういった意味で本課題研究はおおむね順調に進展しつつあると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度のチンパンジーの減数分裂に関わる研究から、RCROの細胞分裂への何らかの影響が推定される。そこで現在、細胞イメージングシステムのタイムラプス機能を用いて、チンパンジーの皮膚の線維芽細胞における体細胞分裂場面を経時観察し、細胞分裂サイクルの時間を計測中である。この方法で、RCROを持つチンパンジー、ゴリラ、シアマン、ならびにRCROを持たないヒト、オランウータン、ニホンザルとの比較をおこなうことで、RCROの細胞分裂への影響を検討する。本課題や共同利用研究の流れの中で、チンパンジーのiPS細胞の作製に成功した。現在、その細胞の評価を精査しているところである。iPS細胞の機能や組織形成において、RCROの反応を検討する必要があるという認識を持っている。新たな研究への発展型として斬新な研究計画をおこなう必要がある。さらにStSatのプローブと染色体彩色プローブ、ならびにヒト染色体 7q31.1 および 13q14.4 領域のBACクローンを選定し、今後はこれらとRCRO領域プローブを組み合わせることで、チンパンジーのRCRO領域とその周辺部をセットで3次元核内配置解析を進めていく。これによって細胞内の存在部位と遺伝子発現等の機能に関わる関連を調査する。また新たに発見したテナガザルやヨザルのRCRO構造を分子レベルで解析し、比較解析を基にゲノム不毛地帯の普遍的な形成機序を解明する。機能的意義を明確にするために、RCRO周辺の存在するゲノム構造を種間および個体間で比較し、組換え頻度や多様度をRCROの存在しない領域との比較解析をおこなう。以上のように、これまでの研究の進捗によって、「ゲノム不毛地帯(RCRO)の進化と意義」の解析を、より大きく展開する基盤ができたといえる。これらの成果を集大成し、今後より踏み込んだ「ガラクタDNA」の存在意義を明らかにするための研究を展開したい。
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