研究概要 |
単収の地域性,気象要因との関係を明確にし,過去の多収事例の解析をもとに,単収レベルを向上する上で改善を必要とする栽培技術や品種の生理生態的特性を明らかにした。過去10年間で最も多収であった2001年は,上位5道県と下位5府県の相違には気象以外の要因が関係していると推定された.最も少収であった2004年の単収は6月,9月の降水量と負の直線関係にあったことから梅雨時の降雨は播種期の遅延や湿害と関連して単収に影響し,9月の降雨は台風の接近回数と関連し,倒伏を通じて単収の低下と密接に関係すると考えられた.全国豆類経営改善共励会成績概要を解析したところ,集団に比べ農家の単収レベルは高く,開始後15年間に多収上位5例が記録されている.39年間で低コスト化が最も進み,10a労働時間は5時間を切るようになった.受賞農家の緯度,標高と単収の間には明確な関係はみられず,寒暖,高低いずれの地域からも多収事例がみられた.播種期や収穫期は39年間で10日程度遅くなる傾向にあった.栽植密度は7.1から13.3本/m^2に密植化した.中耕培土回数は近年の狭畦栽培を除くと,平均で2回程度は行われている.変動は大きいものの有機物は平均で1.4t/10a程度投入されている.アメリカ合衆国の多収事例として1080kg/10aがミズーリ州で報告されている.これは適品種の選択と早期播種,適度な降雨,高日射,適切な灌漑と病害虫防除によっていた.日本においても786,765kg/10aの記録があり,子実肥大期間の高日射と高い葉面積指数(6-8)によりもたらされていた.多収穫栽培には基本技術の励行が不可欠で,排水性向上を目的とした土地改良に取り組み,適度な輪換期間で,堆厩肥や有機物を施用して地力培養に努め,これに適合した施肥体系で,栽培地の気象に応じた適品種を選び,選別した種子を適期に最適な栽植密度で播種し,適度に中耕培土を行い,乾燥時には灌漑が可能で,病害虫防除を徹底し,日射に恵まれ,台風等強風による倒伏が生じなければ,多収穫はついてくる.多収に向けた莢数増加戦略として,初期の栄養成長促進みよる節数・花蕾数の増加,開花期から子実肥大期の物質生産促進による結莢率の向上,バイオマス拡大戦略として,播種の早期化と速い出葉速度,高いLAIで良好な受光態勢の維持,莢数増加によりシンク容量を拡大して収穫指数を最適化することが指摘された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果をもとに,日本作物学会第233回講演会(東京農工大学)3月30日午前(9:00-12:00)にミニシンポジウム「我が国におけるダイズの収量ポテンシャル向上戦略」を企画し,1.我が国におけるダイズ多収事例の解析と収量ポテンシャル向上戦賂,2.ダイズ高収事例における収量と気象要因との関係-簡易モデルを用いた解析,3.ダイズ生産技術の日米対比-なぜ単収がアメリカは増大しているのに日本は停滞しているのか?,暖地における秋ダイズ子実収量の制限要因解析-佐賀県における30年間の作況試験から,を研究代表者,研究分担者で話題提供し,ダイズの生産性阻害要因を議論した。
|
今後の研究の推進方策 |
1.多収事例の解析で用いたデータをデータベース化し,ホームページに掲載する。これら事例につき,当該年次の気温・日射量をもとに,多収を達成した要因解析を行う。 2.過去2ヵ年行った,ダイズ栽培連絡試験を本年度も継続し,3ヵ年の子実収量,乾物生産量,日射乾物変換効率のデータを解析して,収量ポテンシャル予測モデルにより,東北-関東-近畿-中国-九州における可能最大収量を予測する。 3.可能最大収量と観測収量との差を収量ギャップと定義して,収量ギャップを生じる要因を,気象要因,土壌水分,収量成立過程に着目して解析を行う。
|